心得16つ目《大人のこと》 ページ19
いつも通っている穴蔵のバーよりも広く、カウンターが伸びた後ろにはいくつかのまとまった席が用意されている。その奥にある少し広い空間には一台のピアノが置いてある。遠目で見てもわかるほど磨かれたそれは室内にあった古風な優雅さを醸し出していた。
『何か飲むかい?』
「え………っと」
メニューを見ても特に変わったものはない。
洗剤とかあったらそれで死んだ見ようとか思ったのだけどそんなことができるわけもなかった。
何を選べばいいのかもわからなくなったので、静かに呟いた。
「永井幹部と、おなじものを」
「かしこまりました」
マスターのまだ青い声が響く。拭かれる食器の音。なりそうなピアノ。バーの店内に流れたジャズ。割と嫌いな雰囲気ではない。
居心地が良くなって思わず伸びをした。
永井幹部も少し首を傾けてから休みを楽しむように煙草を取り出した。
Peace。
「貴方らしいですね」
『煙草で人を判断するのはあまりお勧めしないよ。これを吸ってる時は一番満たされる感じがするのも確かだがね』
Peaceは平和を意味する。
この煙草に至っては継続性のある平和を指している。マフィアが吸うような銘柄ではないような気がするがこの人にはこんなのがあっているのだろう。私も煙草は好きだ。本当は吸ってはいけないが私は悪いから、吸っている。
『こらこら、君は吸ってはダメだ』
こっそり一本もらおうとすると止められた。持っていた火のついていない一本を箱にしまわれて、箱も服の中にしまわれてしまった。
軽く笑って自分はその煙と味を堪能している。
「ずるい」
『そうだろう?大人はずるいのだよ』
珍しく子供みたいに笑って、煙草をまた吸って大人びた顔に戻る。香る煙草の匂い。自分の煙草は切らしているし、仕方なく我慢する。
やがて頼んだものが私たちの前に置かれた。
珈琲。どのカフェにもありそうな一般的な珈琲だ。香りは薄く、煙草の匂いに負けている。
「おまけのガトーショコラです」
マスターが呟いておいた。永井幹部が少し困ったようにしたが、マスターの気遣いあってかそれを受け取った。
「君も」
「いえ、私までもらうわけには……」
『いいよ。貰っておきなさい』
永井幹部がそう言って私の前にガトーショコラを置く。珈琲の苦味と煙草の匂い、ガトーショコラの甘さが混ざって、大人の空間が出来上がっていた。
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しぇるふぃあ。 - すみません、「聖バレンタイン日」が「生バレンタイン日」になってます…!小泉幹部すごく好みです、更新応援してます!! (2018年3月21日 12時) (レス) id: 2fca820d76 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃら - 面白いです!頑張って下さい! (2018年3月11日 12時) (レス) id: b7f29ff674 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - かれんさん» 今回の話の題名では、夢主さんが最年長幹部なのでそれをそのまま題名にさせてもらっています!太宰さんは確かに最年少幹部ですけどね! (2018年2月23日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
かれん(プロフ) - 下のコメントに「最年長幹部では?」とありますが、正しくは「最年少幹部」なのでは?細かいところすみません、お話、最高に面白かったです! (2018年2月23日 21時) (レス) id: bd11a80ca1 (このIDを非表示/違反報告)
hi - 凄く楽しかったですこれからも更新頑張ってください (2018年2月8日 17時) (レス) id: 8a1cd5ab5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2018年1月27日 19時