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心得12つ目《光のこと》 ページ15

子供は私の手を取って涙を流しながら笑った。大粒の涙はきっと今までの我慢や苦痛や悲しみを全て込めたものだったのだろう。声にならない声で泣き出して、それをそっと抱きしめればまた激しく泣いた。





『泣いていいよ。君は今日、此処を離れるんだ。新しい場所に行くんだ。惜しみなさい。嫌なその想いも全て流してしまいなさい』





私もそうして慰めてもらった。
古い記憶の母はいつも優しく微笑み柔らかな手のひらで私を慰めていた。
子供はそっと私を見上げて、1つ呟いた。




「もし、何か伝えたいことがあったら、僕を使ってください。それ以外でも、できることはやります。僕を、惜しみなく使ってください」




その盲目的な従順さは確かに私が求めていた。けれどこんな子はまともに育ててあげたくなる。僕を使うのではない、共に助け合おうと言わせてあげたい。この子はそういう前向きな言葉の方が似合う。




『私は永井A。君に名前があるならば教えて欲しい』




「……こう」




『どう書くのかわかるかい?』




「わからない。ただみんなは、こう、と呼んでいました。僕は、こうです」





こう、それではいろんな言葉になってしまう。そうだ、私が漢字を当てよう。
こう………彼の瞳を見た。微かに見えた柔らかい光。この子には、この少年には先の光が見えている。きっと、優しくて素敵な子だ。
闇よりも似合う場所が必ずある、そう例えば……




『光(こう)。光と書いて、こう。
君は影でも闇でもない。光だ。弱々しい光。君はまだそれだ。いずれ影ができてくる。その影ですらも光を前にしなくては生まれないのだから、君は常に生み出す側であって欲しい』




少年の目が一層光った。星が光ったようにも見えたその瞳の色は私と同じ黄色に似ていた。
納得したように私の手を握って笑う。



「光、僕は光です。貴方の光になってみせます」




心底幸せそうに笑うその顔が愛おしくて手を握り返して歩き始めた。いい子が見つかった。
この子は……光は私が育てよう。家に置いて、なるべく光の当たる世界を見させよう。いつかそうして笑顔で送り出してやれるまで、私は生きることとしよう。







ーーーーーーーーー

光(こう)……男

9歳の少年。
触れた相手に考えた言葉を伝える異能を持つ。手を繋いでいる人の考えをもう片方の手を握っている人物に送ることもできる。意思疎通の仲介役。
博識で礼儀正しい。

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しぇるふぃあ。 - すみません、「聖バレンタイン日」が「生バレンタイン日」になってます…!小泉幹部すごく好みです、更新応援してます!! (2018年3月21日 12時) (レス) id: 2fca820d76 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃら - 面白いです!頑張って下さい! (2018年3月11日 12時) (レス) id: b7f29ff674 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - かれんさん» 今回の話の題名では、夢主さんが最年長幹部なのでそれをそのまま題名にさせてもらっています!太宰さんは確かに最年少幹部ですけどね! (2018年2月23日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
かれん(プロフ) - 下のコメントに「最年長幹部では?」とありますが、正しくは「最年少幹部」なのでは?細かいところすみません、お話、最高に面白かったです! (2018年2月23日 21時) (レス) id: bd11a80ca1 (このIDを非表示/違反報告)
hi - 凄く楽しかったですこれからも更新頑張ってください (2018年2月8日 17時) (レス) id: 8a1cd5ab5f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2018年1月27日 19時

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