8、セキュリティー ページ9
人の波。
どうしてこうなったのか、知ってる人は少ない。
廊下いっぱいに溢れる人は皆、非常口の方へと走っている。
【セキュリティー3が突破されました】
と言う放送を聞いた生徒が迅速な避難のために逃げ惑っている。
窓から見えるセキュリティー3を突破したものは、単なる報道陣だと言うことにも気づかぬ生徒たちは、ヴィランか、人か、はたまた別の何かか、と考えを巡らせては己のために体を動かしている。
『何が………』
驚いた声で廊下に溢れる人を見つめる福使は、携帯を片手に警察へと連絡を告げた。
震えている手を自分の片手で押さえながら、今の状況で自分がすべきことを探る。
「飯田くん…!!」
人混みで流れそうな麗日が飯田を呼んでいる。
福使は飯田のしたいことがわかったようで人の波へと飛び込んだ。
人を掻き分け、麗日の背後へとつく。
「麗日君!俺を……浮かせろ!!」
麗日に向けられた手が届きそうで届かない。
『少し押すよ』
麗日が不意に一歩前に進めた。
後ろから支えられてる感触に思い切り手を伸ばす。
パシンッ
(触れられた!!)
飛び上がる飯田をパニックを起こした人々が見つめる。
「みなさーん!だいじょーーーぶ!!!」
大声はさらに人の目を集め、非常口のマークと瓜二つのポーズをとって状況を簡潔に説明する。
「ただのマスコミです!!何もパニックになることはありませーん!!!!」
『………良いことするじゃん』
福使がぽそりと呟くと人の波は勢いを落とし、それぞれが窓の外を見たり、教室に入ったり食堂に戻ったりと各々安心したのが見て取れた。
「ふぅ」
「飯田くん!かっこよかったよ!!!」
緑谷と麗日が飯田に近寄ると、飯田があの体制のまま前のめりに倒れた。
慌てる二人がそっと支えると、悔しそうに、
「足が、痺れた」
とだけ言った。
「おーい、大丈夫かー?」
「上鳴君、切島君!」
手を振りながら駆け寄ってくる二人に笑いかける飯田。多くの目の中で、多くの混乱の中で、多くのものを導いたその才能にも似た行動力と判断力。
それらは、ある場所でより強く発揮される。
『委員長に入れてやればよかった』
自分に投票したことに対しての悔しみと苛立ちで、福使は目を擦った。
赤く充血した右目が、少しだけ腫れたように感じた。
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年11月25日 21時