6、秘密 ページ7
ズルズルと引きずられてそろそろ服が破けてしまいそうな摩擦が嫌になってきた緑谷が投げ出されるようにしてとある場所へと連れてこられた。
福使は緑谷から手を離すと、ゆっくり息を吐いた。
「いったたたた……」
『ご、ごめんなさい!』
急に聞こえた柔らかい口調に緑谷は驚愕をあらわにした。自分の後ろで頭を下げる福使が、おろつきながら手を差し伸べている。
『立てますか…?』
「え、あ……うん」
手を引かれて立ち上がる。
初めて触れた母以外の異性の肌に緑谷は思わず顔を赤らめる。
「えっと、ここ……は?」
見渡すとそこはどこかの教室のようだった。少し汚れてはいるものの使えそうなくらい綺麗な教室。机と椅子は後ろに寄せられ、黒板は何も書かれていない。誰かが使っていた形跡はない。
空き教室のようだった。
『空き教室、です。一年棟の端っこにある…』
「知らなかった……」
モゴモゴと口を動かす福使に緑谷はまだ状況がつかめていなかった。
第一としてここに連れてこられた理由がわからない。もう一つ言うなら、この人の反応だ。
さっきまでの冷たい感じがなくなっている。
『あの、私のこと、おお覚えて、ます、か?』
首をかしげた姿に見覚えはない。
緑谷は、ごめん、と呟いて俯いた。
福使がいえいえ!とフォローすると途端に静かになった。
『……えっと』
「…な、なんでしょう」
『私、あの、先日助けていただいた者です』
福使がゆるりと髪ゴムを外す。
ゆっくりと舞う黒髪に、彼女が取り出した赤い縁のある眼鏡。
緑谷はその人物に見覚えがあった。
「このあいだの…!!」
『はい!緑谷さん!!』
柔らかく笑った姿はまさにあの時自販機で飲み物を買ってあげて名を聞かれた、あの時の女子だった。
「髪結んでたから気づかなかったよ!
福使さんだったんだね!!」
『あの時は本当に、ありがとうございました!!』
深々と頭を下げる福使に、慌てながら顔を上げるように緑谷が促した。
顔を上げた時にふわりと香るシャンプーの匂いに何歩か後ずさり顔をさらに赤くする緑谷をみて福使が首をかしげる。
「でも、なんでこんなところに?」
『えっと、その……話がしたくて』
「は、ははは話し!?」
まさか女子から話がしたいなんて言われるとは思わなかった、と小さく呟いた緑谷に福使はまた笑った。
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年11月25日 21時