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33、逃亡 ページ34

近くの椅子に座っている彼はいつものように騒がしくも楽しそうでもない。
辛く少し怒り気味の顔でじっと相澤を見つめている。福使はそんな彼の隣に座って悲しそうな目で相澤を見る。



「久しぶり」



低い声で絞り出すように話しかけているプレゼントマイクはもうヒーローの影も形もない。
友人を見る、一人の人間としてそこにいる気がした。




『………いつも、相澤先生がお世話になってます』



「こっちも助かってるし、逆にありがたいよ」



両者目を伏せ、点滴の繋がれた人の呼吸音に耳をすませる。しっかりと生きていることを理解していないと、話もできなくなってしまいそうで。




『……プレゼントマイク、先生は、相澤先生のこと友人だって思ってますか…?』




福使が不意にそんなことを聞いた。
相変わらず顔を伏せたままのプレゼントマイクがそっと口を開いた。




「思ってるよ。古い友人で同期。
そして、同じ人を失った仲だ」




悔しそうに拳を握る。
思い出して涙しそうになるのをこらえているのがヒリヒリと痛いほど伝わってくる。




『先生』


「……」


『相澤先生、死なないですよね』



医師の診断で命に問題はないとわかっていた。それでも福使が答えを求めた理由は、単なる安心感を求めたからだった。相澤の友人である彼、プレゼントマイクから、相澤は大丈夫だ、という言葉が聞きたいから。




「………死なせないさ」




絞り出すようにプレゼントマイクが言う。
それには確かに後悔が含まれていて福使は立ち上がった。その場にいるのが辛くなったからだ。
いまだけは、ここにいたくなかった。






『っ、すみません。もう、帰ります』




一言それだけいって扉に手をかける福使の手が止まった。プレゼントマイクの一言だった。





「もう、君のお母さんのような悲劇は起こさせない」




扉を開けて飛び出して、ひたすらに病院内を走った。看護師の注意を無視したのも初めてだった。こうして人から逃げたのは数知れず。それでも、人の話を聞いて、一言で涙を流すのは、初めてだった。




ーーー

ーー






彼女がいなくなった221号室で、二人の男がそっと話していた。




「相澤。目が覚めてたならなぜ話してやらなかった」



包帯を巻きに巻いた相澤が泣くように呟いた。




「今の俺を見たら、彼奴、泣くだろ」




泣いてるのはどっちだよ。
プレゼントマイクは心の中で呟いて叫ぼうとした口を閉じた。

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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年11月25日 21時

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