カルテ63枚目【過去】 ページ29
『美味しい』
涙が出るくらい美味しいそれは、僕の欲しかったものだった。
薬の味がしないご飯、それもあるけど。
愛情のある、何かが欲しかった。
幸せだった。
やっと味を取り戻せた。
残りの3枚も全部食べてしまうと、もう満たされたような心地がして眠くなって来て、まだ話さなくちゃいけないこととかあるのに、ベッドに倒れこんだ。
「大庭医師!?」
『え、へへ。大丈夫。
お腹いっぱいで、眠くなって来た、だけ』
欠伸をすると最年少幹部様がくすりと笑う。
笑われてもよかった。
それだけ、今はこの子と一緒に入れるだけで良かった。
「…………」
『………話すよ』
「えっ」
『………僕の昔のこと』
最年少幹部様は、簡易用の椅子に座っている。
きっとそれが聞きたいのもあって、ここに来たんだろう。なら聞かせてやるのが、僕のすべきことだ。
『これは、僕がまだスラムにいた時の話さ』
ーーーー
ーー
ー
そこは、奪わなければ奪われる世界だった。
住む場所も、食べるものも、命すらも。
幼いながらにそこで生まれた僕は、なんでも奪って生きて来た。それが正義で正しいと信じていて、それしか僕にはなかったから。
「大丈夫かい?」
ある時、割と綺麗な服を着た男が僕に話しかけて来た。その時不意に転んだのだったか、食べ物を奪った後だったか、もう忘れてしまったが、その男はやけに僕のことを心配した。
怪我をしてる、と簡単に治療をしてくれて、帰るところがないのを悟られると、部屋に泊めてくれた。
男は数日しかここにいないという。
スラムでは有名な酷い人を殺す依頼を受けたらしい。別になんてことはない。
殺し殺されるのが世界だ。
「にしても君は素質があるね」
『なんの素質だ』
「医療の素質さ。構造を理解しているだけでも上出来だ」
確かに齢10だった僕が、医療関係の基礎を知っていたのも凄かったが単に大人の会話を聞いていただけというのもあってあまり自慢はできなかった。
男も医者をしているらしく少しだけ応用を教えてくれた。
それから少しした時だった。
「痛っ」
あの時は確か、男からおつかいを頼まれてその帰りだった気がする。女の人が転んだんだ。
割と綺麗な人で、転んだだけだったみたいだから簡単に処置をしたら笑って僕に名前を教えてくれたんだ。
確か、名前は………
「辻村、深月と申します」
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NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» もしよろしければリクエストォォォ!! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 赤珠(元 チョコうさ。)さん» そ、そ、そ、そのつもりでございましたぁぁぁぁあ!!!!やりますやります!頑張ります! (2018年1月1日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - 続編…だと…!?この流れからしてあのパターンだよね?うわあああああああああ!!もしよければ与謝野さんと話しして欲しいですー!!!!!! (2018年1月1日 21時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - ぬおおおおおおお!!!!…。←語彙力 控えめに言って…神です。(真顔) (2017年11月13日 8時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
赤珠(元 チョコうさ。)(プロフ) - NamE.薆さん» なぬ…!?…。死亡フラグが思いつかねぇ。← (2017年11月5日 10時) (レス) id: 5fa7fae13e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年10月27日 19時