太 宰 幹 部 の 包 帯 事 情 ２【太宰治】

カルテ４５枚目【特権】 ページ11

鴎外と一定の会話をしたら、これは始まる。
いつ、なんの経緯で始まったのかは覚えていない。だがそれをやらずにはいられない。

何方かが降参を認めるまで続く簡易戦闘遊戯。






『また、やりますか』




「望むところだよ」




僕は机にあったハサミを掴み上げ、鴎外に向かって突き刺す。
鴎外はそれを予測していたようにメスで防いだ。それすらも僕は予測していて、ハサミを手首ごと回転させて、メスを彼の手から落とす。彼の白い手袋がわずかに赤くなるのを見て笑うと、彼が逆の手でメスを拾いあげ、僕の首筋に添えた。
僕だってそこまでやわじゃない。
メスが来ることも想定済みで、逆の手でメスを掴んだ腕を防いだ。




「やはり、腕は落ちていないようですね」




『何度も頭でシチュエーションして、何度もあなたを負かしましたから』






ふと鴎外が不敵に笑った。嫌な予感がして身構えると、ぐいっとした痛みが足に走った。
思わず身を引く。
そうだった今回は医務室で、しかも僕たちは二人とも座っていた。机の下のことを考えていなかった。






『足は卑怯ですよ』




「ルール上、禁止にはなっていないだろう？」




『………チッ』




こうなったらやり返す。
僕は、ハサミを持っていた手の力を抜いた。当然ハサミは落ちる。ハサミは机にあたり、それより早く、彼が飲んでいたお茶のコップに当たった。
中身が机に広がり、ポタリポタリと彼の服を汚す。小さな仕返し、されど彼には有効。






「やってくれるね」






『ルール上、禁止にはなっていないので』





作り笑いで返すと、鴎外がくつくつと笑った。首筋からメスを離して、そっと置いた。鴎外が手を上げて、参ったよ、と笑いながら言う。




「いやぁ、君には本当に意外なところを突かれる。着替えがあれば欲しいのだが、何かないかね」





『僕が用意したナース服ならありますよ』





「私に着せようっていうのかな？」






『冗談言わないでくださいよ。いい歳した男のナース服なんて僕は見たくないです。
【最年少幹部様】みたいに似合うならまだしも』





鴎外は少し拗ねたように頬を膨らませた。
僕と何十も離れたような人だけど、こうして時々喧嘩まがいなことをして、笑って、冗談を言い合う。この関係性は僕の特権だと思っている。






「ふぅ、そろそろ本題に入ろうか」





鴎外が僕の嫌いな話題を出して来るときの、やけに嘘くさい、悲しい表情をした。

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