前奇談第16話 助かりたい ページ18
「かはっ、こほっ………ぅ」
何度か咳き込んで鉄の味が広がる口の中を荒らす。津島さんが殴っていた手を止めながら、じっと私を見つめている。
『君が今、見ていいのはボク。ボクのことだけ。
君の情報を見てそれを簡単に理解してくれそうだと思ったのに、とんだ失敗だったよ』
自分ばっかり。
見て欲しいだけじゃないか。自分のことを知って欲しいだけじゃないか。
我儘な人だ。
でも、私だってそうなのだろう。
「すみ、ません」
謝って許してもらおうなんていう軽い気持ち。それもきっと私の助かりという意思の我儘だ。
……………助かりたい?
「助かりたい」
初めて、考えた。
自分が助かりたいなんて、思ったの。
『………………ふんっ、興味なくした』
津島さんは私の腕から手を離して、朝食の横に置いていた水を飲み干した。
『味噌汁は自信作だったからボクが飲む。ほかの入らないから適当に食っておけば?』
吐き捨てるように言った後、扉を強く閉めて何処かへ行ってしまった。
ベッドに押し倒されていたように寝転がる。
朝食。
「美味しそう」
和食の秋刀魚がこんなに美味しそうに見えるのは初めてだった。
否、食べ物が美味しそうなんで風に見えるのも久しぶりな気がする。
箸を手にとって、椅子に座って、そっと秋刀魚を食べる。
「…………………まぁまぁ」
まぁまぁ、美味しい。
食べられなくもない。
…………美味しい。
和食がこんなに美味しいものなんて、1日ぶりのご飯は久しぶりに美味しく感じた。
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
自室に戻って、一息ついた。
監視カメラの映像がいくつも表示されているボクの一時的な部屋には緑色の光が至る所に反射している。元々目が悪いのがさらに悪くなるよ。
『……………よかった』
安心した。
あの子が、オサム君がちゃんと他人を大切だと思える人で。
もしもこんな状況じゃなかったら、
教えてあげたいこととかいっぱいある。
社交性とか、笑い方とか、そういう普通のことを教えたい。
でも、それが出来ない。
ボク達のこの状況は、この仕事は、そういうものだ。
『オサム君、友達は大事にしなよ』
どうか、どうか彼が将来。
ボクに打ち勝った時。
大切なものを守れますように。
そんな人になっていけますように。
(ボクは、それが出来なかったから)
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486 - ビビりまくりの太宰さん凄く可愛いです。こういった小説をあまり見掛けないので、この作品を見付けた時静かに天を仰ぎました。素晴らしい小説を有り難う御座います。(ボソッ) (2021年12月27日 23時) (レス) @page23 id: 95e132c874 (このIDを非表示/違反報告)
コノン - リクエストで太宰さんが夢主に悪戯(イタズラ)をしてみたをお願いします!! (2018年5月11日 21時) (レス) id: a71a5af7c9 (このIDを非表示/違反報告)
リネン - リクエストで【夢主ちゃんが安吾に会った】をお願いします( *´艸`) (2018年5月11日 21時) (レス) id: a71a5af7c9 (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - 何コレ太宰さん天使じゃん!これからも更新頑張ってください!応援してます! (2018年5月7日 20時) (レス) id: 6f15b8d456 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - ビビってない(ビビってるけど慣れてきている?)太宰さんもいいけどビビりな太宰さんもいい!やはりビビりですな!前奇談も頑張ってください!応援してます! (2017年10月31日 23時) (レス) id: c2da3d0588 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年9月3日 20時