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「決められないです……
お父さん、今日お見舞いに行ったときに、言ってたんです。
俺はもう家族には会わないって。
会って、もし俺が家族との大切な思い出を忘れてしまったことに気づいたら、傷つくからって。
お腹の子のためにも、治療で強い薬を使うからって言って、遠ざけたまま、一人で死んだ方がいいって。
元気な姿だけをみせて逝きたいから。
でも、ほんとにそれでいいのかな？って。
確かに、お父さんの言う通り、記憶がないことに気づいたらきっと傷ついちゃいます。
だけど、このままお父さんと別れたら、ものすごく後悔しちゃう……」
「そうか。
産科医として言うな？いまの状態のお母さんに、お父さんのことを言うのは、お母さんにもお腹の子にも、ものすごく悪い影響があると思うねん。
ただ、このまま会わんといたら、後悔するいうのもわかる。
お父さんともういっぺん、しっかり話をしたほうがええと思う。」
お父さんと話か……
「わかりました。わざわざありがとうございます。」
「あんまし思い詰めんようにな？」
「はい。」
会うべきか、会わないべきか。
バイト帰りに、お父さんに電話をする。
もう、腹は決めた
「もしもし。お父さん？」
「どうしたんだ？」
「今日お父さんと話した後に、もう一度自分でよく考えた。そして、決めた。
明日、弟たちをつれてお父さんに会いに行く。そして、お父さんも車イスにのって、みんなでお母さんのところにいこう。
お父さんの言う通り、これで、会うのは最後にするから。
このまま会わずに離ればなれになっちゃったら、みんなこれから一生後悔して生きていくと思うの。
まだ、私たちのことがわかるうちに、もう一度だけ、みんなでいよ？」
電話の向こうから、すすり泣く声が聞こえる。
「大丈夫？」
「お前も、成長したなって。
初めてみたときは、あんなに小さかったのに。
わかった。あとのことは、頼んだぞ。」
「うん。」
電話を切った瞬間、涙が溢れだした。
…明日で最後……
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作者名：ぽん | 作成日時：2017年5月22日 16時
