許婚はお医者さん 2 緑

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病院についても、中々車から出られないでいる私に、成亮さんはとうとう手首を掴んで手を引いた。

手を繋ぐんじゃなくて、手首を掴む辺り、とても成亮さんらしい。

そうされたら私だってもう抵抗できなくなり、大人しく成亮さんに付いていった。



「すみません、加藤Aです。」



「ああ、加藤さんですね。
お話は伺っております。1番診察室へどうぞ。」



受付の人がすぐに案内する。

そんなに焦らなくてもいいのに。



「ほら、行くよ。」



「待って、心の準備が！」



「午前中から散々待ったし、準備する時間なんて余るほどあったでしょ？」



今日の成亮さんはいつにも増して厳しい。

ドアの前でやり取りをしていたからか、私たちが居るのに気づいた先生が、ドアを開けて出てきてしまった。

歯医者さん特有の臭いと、マスクと、帽子に、怖くなって涙が溢れ出す。



「診察室の前で痴話喧嘩って、さすが新婚さん。」



「これが痴話喧嘩に見えます？」



「見えないね。
え？泣くほど痛み強いの？」



「Aさん、今から泣くことないでしょ。
ほら、先生が訊いてるよ？」



背中を擦ってくれる成亮さんの後ろに回り込み、陰に隠れる。



「俺を盾にしないでくれる？」



「ところで、シゲは時間平気なの？
そっちも午後の外来始まる時間だろ？」



「あ…」



仕事とは分かっていても、この人と二人で残されるのが嫌で、すがってしまう自分がいる。



「大丈夫。そんな顔しなくても。
櫻井先生、優しい先生だから。」



「そうだよ。」



「自分で言います？
ごめんね、じゃあ、頑張ってね。」



仕方のないことだけど、成亮さんは仕事に行ってしまった。



「一応訊くけど、歯医者さんは苦手？」


あの嫌なイスに座らされて訊かれる。

分かってるなら、訊かなくてもいいのに。



「うん、顔で分かった。
じゃあ、絶対にムリヤリ治療はしないって約束するから、もしイヤだって思ったら左手を挙げてね。」



え？いいの？

突然救いに、すぐに手を挙げる。



「今じゃなくて、治療始まったらね。」



「だって、ムリヤリ治療はしないって…」



「それは、休憩を挟んだり麻酔を追加したりするって意味ね。」



「やっぱり、麻酔するの？」



「しなかったら、めっちゃ痛いよ？」



麻酔するのが痛いじゃん！

どうしよう、やっぱり怖い！イヤ！



「道具を取ってくるから、ちょっと待っててね。」



…逃げるなら、今だよね。

先生が帰って来ちゃったら、もう逃げられない。

そう思ったときには、私は診察室を飛び出していた。

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