5話 ページ6
「ただいまー」
「ただいま！」
柚葉は居間に行き、鈴も飲み物を冷蔵庫に入れてこようと体の向きを変えた時、ガラリと扉が開いた音がした。
「ただいまーっ…」
振り向くとそこには玲が立っていた。
「兄ちゃん！…ん？」
玲の足元に目を向けると、不自然な方向にもう一本影が伸びていた。多分彼女のものだろうと思って訊いてみた。
「兄ちゃんの恋人って人は？」
「あぁ、ちょっと待って。そうくん！」
そう「くん」だと？
これはもしや。
「はじめまして、」
そこに居たのは背が高く細身の男性だった。
高めの声に反したハーフ寄りでかっこいい系の顔立ち。
推しにそっくり。というか…
「え、るぅとくん？」
咄嗟に口を突いて出た第一声。
そうさんが驚いた顔をしているのを見る限り正解なのだろう。
「あの、訊きたい事は山程あるんですがとりあえず中入りましょ。立ち話もなんですし…」
酒のビニール袋を拾い上げて居間へ案内した。
「お帰り、ありがとうジュースまで買ってくれて。お金払うね」
鞄に入れられた美来の手から優しく財布を落とした。
「いいよいいよ全然、気にしないで」
「ごめんね、ほんとにありがとう。玲も久しぶり。
あと…」
そこまで言って困惑しだした美来に玲が説明を入れた。
「この人は黄戸 奏さん。」
「はじめまして、黄戸さん。高野 美来です。」
「はじめまして。」
一通り自己紹介が終わり、玲と奏は両親に連行された。
「鈴も来い」
「あ、はい！」
普段から低く威圧感の強い父親の声がさらにワントーン下がっていて、裏返った鈴の声はそれと反対にワントーン上がった。
「おかあさん、れいくんとあのおにいちゃん怒られに行くの？」
柚葉の無垢な声が居間の沈黙を解かした。
「どうなんだろ…宮田のおじいちゃんの判断次第。」
宮田家は呼び名がややこしく(今の時点で大変なのは柚葉のみだが)、自分の家族じゃない場合は鈴達の親が「宮田の〇〇」、美来の親は美来の婚姻前の姓である「江藤の〇〇」で呼ぶ。
「はんだん？ぜんぜんわかんない」
柚葉はそう言って一瞬の隙も作らずあっさりと流した。
「いつかゆずにも分かる日が来るかな、“お父さん”？」
普段は名前で呼ぶ美来が揶揄うように直樹に問いかけた。
「…知らなくていい」
「おー、娘はやらん系ですかぁ？」
「変な系統作んな。」
柚葉はしばらく両親の掛け合いを戸惑ったような表情で見つめていたが、すぐに飽きて菓子鉢から出した煎餅を割っていた。
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