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病室に戻り、ローが読んでいた本を開く。
医療に関する本のようだ。些かわかりやすく書いてるであろうその本も専門外のスモーカーには何を言っているのかさえ分からなかった。
この本をまだあんなに小さな子供が？
スモーカーは人知れず「今のガキは恐ろしい」とつぶやいた。
いつもの通り昼食後、本を持って中庭に向かうとそこにローの姿はなかった。
今日は来ないのだろうか。スモーカーはベンチに腰掛け待ってみることにした。
昼過ぎのこの風は気持ちがいい。思わずスモーカーがうとうととしていると後ろに気配を感じた。
「よぉ」
そこにはローの姿。
ベンチの端によると、ローが一瞬迷ったような表情をして隣に腰掛けた。
「これ、お前昨日忘れてっただろう」
ローに本を手渡すと「ありがとう」と声が聞こえた。
なんとなく驚いた。挨拶もちゃんとできるのか。よく躾もされているのかも知れない。
「その本勝手に読んじまった。俺にゃさっぱりだったよ。お前すごいんだな」
「…ローだ」
「んぁ？」
「おまえじゃなくてロー。…きのう、なまえよばれてるの聞いただろ」
「あぁ、おまえ…ローに教えてもらってないのに呼ぶのはおかしいだろ」
ローはまた無言で本を読み始める。
スモーカーは何もしないこの時間が心地よくなっていた。
「なぁロー。お前歳幾つなんだ」
スモーカーがそう聞くと「5」と返ってきた。
返事もしてくれなかった機能に比べればすごい成長だ。
それからも昼食後に中庭へ行ってはローと話をして、夕方になる頃には別れる。
そんな日が続いた。ローは少しずつスモーカーと会話をしてくれるようになった。
そんなある日。珍しくスモーカーはローより早く中庭についた。
また検査か何かだろうか。だとしたらここにいても意味ねぇな。
もう少し待ってこなければ病室に戻ろう。先に葉巻でも吸うか。
喫煙所で葉巻を吸いながらローのことを考える。
毎日ローは一人だ。ご両親は忙しいんだろうか。
そして子供らしくない深くて暗い瞳を持っているのも気になっていた。
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作者名：きんぴら | 作成日時：2020年3月8日 23時
