嘘七十と六つ ページ26
「私もです」
「猫好きの人に悪い人はいないっていうのがオレのモットーでして・・・」
そのまま続きを話すと思いきや、しれっと大宰は言った。
「・・・と、そういえば蔵永さんの会社は?」
「サイバー・・・」
言いかけて、慈恵は口を噤んだ。
表情こそ変わっていないが失言だったのだろう。
名前だけでなく、会社も言うつもりはなかったらしい。
大宰はその隙を逃さなかった。
「サイバートレントですか!
十五階にある会社ですよね!」
「・・・ええ、そうです」
趣味の話で油断させておいて、いきなり話題を切り替え、本音を誘い出したのだ。
同じ嘘つきでも、大宰の方がやり手だと真依は感じた。
「サイバートレントの二階上にあるフリットワークに仕事で何回か行ってるんですけど、初めてこのビルに来た時、地下駐車場でぶつけちゃいまして。
打ち合わせに遅れるわ上司に怒られるわで大変だったんですよ」
「そうでしたか」
「十日ほど前・・・ええと、確か六月十六日にも仕事でこのビルに来たんですよ。
ちょっと会議で遅くなってしまいまして、ビルを出たのは夜の十時くらいなんですけど、蔵永さんはその時どこにいました?」
話題がちょっとずつ、地下駐車場に近づいていく。
失踪当日、未玖と慈恵が会っていたという駐車場へ。
慈恵はネックレスにそっと触れた。
「どうしてそんなこと聞くんですか?」
「いえ、その日、地下駐車場で蔵永さんを見た気がしまして」
「よく覚えていませんが、自宅に帰っていたと思います」
その時、大宰がトンッと音が出ない程度の強さで机を叩いた。
これは、合図だ。
大宰は予め真依にこう伝えていた。
『私は前後の文脈や動きを見て、嘘をかなりの確率で見破ることができる。
手強い嘘憑きの場合、言葉の殆どが嘘であるため本音との違いは見分けにくい。
だが本音を漏らす程度の嘘憑きであれば、違いを比較することで判別が可能だ。
だがその場合でも、嘘を見抜くまでに多少時間がかかる。
それまでは普通に会話を続けてくれたまえ。
わかるようになった後、市野江 慈恵が嘘をつくたびに机を人差し指で叩く。
そうしたら意味を逆に取るんだ』
慈恵は名前で嘘をつき、ペルシャ猫の話題で本音を語った。
それによって嘘が見抜けるようになったのだ。
真依は先ほどの慈恵の発言を思い返してみた。
『自宅に帰っていたと思います』
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作者名:アオ x他1人 | 作成日時:2018年3月6日 23時