嘘七十と四つ ページ24
『相手はキャリアウーマンタイプだ。
こういうタイプはダメ男が効果的な場合が多いが、市野江 慈恵は入院費で困っている。
だとするとチャラいのは嫌われやすい。
だから今回は真面目キャラで行こうと思う』
真依は慈恵が大宰の肩書きを見て、緊張がほぐれたように見えた。
やはり公務員というのは安心感があるのだろう。
ただそれが思いっきり嘘だというのは心の痛いところである。
慈恵は名刺をテーブルに置くと、そのまま手を肘に添えた。
「すいませんが、私、今日は名刺を切らしていて持っていないんです」
「えっ？」
つい真依は呟いてしまい、慌てて否定した。
「いえ、あの、何でもありません・・・」
「すいません、おかしな妹で」
大宰がすかさずフォローを入れる。
真依はテーブルの下で軽く足を踏まれた。
『もうミスるなよ』という合図だろう。
真依はじっと慈恵の顔を見つめた。
昨日、真依は慈恵から名刺をもらっていた。
それから名刺が切れた可能性もあるだろうが、どうにも怪しい。
「そういえばお名前を伺っていませんでしたね」
「・・・蔵永 沙織です」
これは・・・っ！
真依は飛び上がりそうなほど驚いたが、懸命に表情に出さないよう努めた。
どう考えても明確な嘘だった。
しかも名前が『蔵永 沙織』。
慈恵の友人であり、おそらくは『女王』の名前。
これは嘘憑きだから取った行動だろうか。
それとも『もう二度と会わないだろうから適当な名前を語った』のだろうか。
わからない。
・・・が、今日が初対面の設定。
指摘するわけにはいかなかった。
大宰はにこやかに返答する。
「蔵永さんですか。
今日は本当にありがとうございました。
実は仕事で時折こちらに来ていまして・・・。
ああ、仕事というのはベンチャー企業への奨励金に関する業務なんです」
「そうでしたか」
「はい。
このビルにはベンチャー企業もいくつか入っていますよね？
都としては今後世界と戦っていく上でそういう企業の育成が急務であると考えていまして」
大宰はペラペラと嘘の業務を語っていく。
よくもまあそんなことを知っているものだと真依は呆れるのを通り越して感心した。
「もうお兄ちゃん、仕事のことばっかり話しても面白くないよ」
ただ感心してばかりはいられない。
しっかり者の妹、という設定なのだ。
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作者名：アオ x他1人 | 作成日時：2018年3月6日 23時
