嘘六十と一つ ページ11
真依が太宰の妹という設定は、その策の一環であること。
「サイバートレントって初台ですよね？
いったいどんな用事があるんですか？」
ネオン街を横目で見ながら真依が尋ねると、国木田は言った。
「市野江 慈恵が『嘘憑き』かどうか、最終確認に行くところだ」
「じゃあなんで太宰さんは一緒に来ないんですか？」
「あとで合流予定だ。
今頃太宰は家で役作りに時間をかけている」
「役作り？」
「今回、キミとアイツは奥苑未玖失踪事件をまったく知らない他人として接触してもらうことになった。
市野江 慈恵に警戒心を抱かせないことが目的だ」
「私と太宰さんが兄妹という設定は、そのためですか」
「そうだ。
キミを美容院に連れて行ったのは、市野江 慈恵と一度会っているためだ。
キミのその変わり様なら分かりはしないだろう」
なるほど、伊達に酔狂で美容院に連れて行かれたわけではないらしい。
国木田が足を止めたのは、雑居ビルの三階にあるバーだった。
国木田が扉を開けると、薄暗い店内が視界に広がった。
カウンターに十席だけという小さな店だ。
シックな雰囲気があり、バーテンダーの背後に並べられた酒瓶がステンドグラスのように輝いて美しい。
各席に置かれたキャンドルがロマンチックな雰囲気を醸し出している。
一番奥の席に一組のカップルがいた。
国木田はそこから一番離れた、入口に近い席に座った。
「ご注文は」
老齢に達しているバーテンダーが声をかけてくる。
渋い声がダンディーだ。
「お任せで。
ただしこっちの子は未成年だから、ソフトドリンクを」
「かしこまりました」
柔らかな物腰で注文を受けると、バーテンダーは熟練の手つきでシェイカーを振り始めた。
「国木田さん、こういうところに慣れてるんですね」
慣れない場所なだけに、冷静な国木田が頼もしい。
そういうところが大人の男性という感じがした。
「・・・まあな」
「ソルティードッグとオレンジジュースです」
バーテンダーがグラスを置く。
不慣れな場で緊張して喉が渇いていた真依は、オレンジジュースを四分の一ほど飲み干した。
ようやくおちついて真依が横を見ると、国木田が固まっていた。
「どうしました？」
「・・・いや」
国木田の視線は目の前にあるグラスに注がれている。
国木田はそっとグラスについた粒を指で取った。
においを嗅ぎ、ペロッと舐める。
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作者名：アオ x他1人 | 作成日時：2018年3月6日 23時
