鯨骨生物群集：42 ページ48
ヒビの目立つティーカップを口に運んで、一口啜った。
特段特別な液体が入っているわけでもないティーカップを啜ると、いつも肺に潜り込んでくる海水と同じ味がした。
錆の目立つ歪に歪んだ缶に手を伸ばしてクッキーを手に取った。噛み砕くと湿ったソレはポソポソと崩れ落ちる。バターの風味なんぞ毛ほども感じないクッキーを流し込むためにティーカップを口に運ぶ。
お茶会の真似事はたいして楽しくもない。ここにAがいたら少しは楽しめるのだろうかと、小さくため息をついてからウツは缶の蓋を閉めた。ボコボコとウツの口から空気が逃げ出していく。ふやけたクッキーを何枚かAのために食べずにとっておいた。嬉しそうに笑うAの姿を想像して、ウツははにかむ。
「ん、にしてもよぉ見つけたよなそんなもん。崩れてないやん凄…」
「せやろ？たまたま外で沈んでくの見つけたんよ。いやー流石ウツにいちゃんやわ。Aチャン喜ぶかナぁ」
「お前この間怖がらせとったやん、暫く口も聞いてもらえんやろ」
「これで仲直りするんですぅ！」
ウツは、深海の水ですっかり冷えてしまった金属製の缶を優しく撫でた。塗装が綺麗に残っているところを見るに、つい最近船か何かから落ちてきたのだろう。水圧で歪んでしまった缶は、蓋を無理矢理に閉めると思ったよりもしっかりとハマってしまって、開けることができるだろうかと少しウツは顔を青くした。
助けを求めるようにトントンに視線をやると冷淡にも「俺は開けへんよ」の一言で片付けられてしまった。
「お前もさぁ、あんなに必死にグルッペンの死骸隠さんでもええやん。別に見られたってそこまで不味いもんやないやろ？」
「何言うてんのトントン！あかんに決まっとるやん！分かってないな、Aチャンは母さんの脳味噌食ってんねんで⁉︎グルッペンは母さんが愛した男やん…万が一、いや、億が一にでもAちゃんが母さんの名残からあんな死骸に恋心でも抱いてみ⁉︎監_禁、いや、もう殺すまであるね」
「いや怖、災難すぎやろA…。殺す、はともかく監_禁はいずれほんまにやり出しそうで怖いわぁ」
「いややるが？」
「草、否定しろや」
カップの縁を優しく撫でた。きゅっとした音が水中で響いて、それから海水に溶けて消えた。
「トントンもさ、ええ加減Aチャン自身のこと見たりなよ。ママの影追うのも大概にせな」
まぁ俺は別に今のままでもええけどな、なんてウツは小さく笑った。
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雨蛙躑躅(プロフ) - コメント返信のやり方を漸く理解いたしました‼︎返信が遅くなってしまい誠に申し訳ございません🙇♀️コメントをくれた皆様、大好きですぞ〜！！ (4月14日 12時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - 惨事さん» コメントありがとうございます！だんだん全てが覆って、次第に壊れて何もかもが無くなる、かもしれないですね！汚く醜い生態系に存在価値があるのかどうか、雁字搦めになりながら沢山想像して欲しいです！これからも完結目指して頑張ります！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - かぼちゃピースさん» コメントありがとうございます！この深海で紡がれる不安定な生態系にアナタが雁字搦めにされていたら、作者はとても嬉しいです！これからも頑張ります！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - まるちゃん生麺さん» コメントありがとうございます！ちゃんと貴方のしきゅ…お腹から生まれている唯一の、おっと。ここまでにしておきましょう！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - リトマス試験紙さん» ありがとうございます！沢山の方々にお気に入り登録や評価、コメントをもらえて雨蛙は本当に幸せです‼︎コメントが届く度に飛び上がって喜んでます！雨蛙の描く悪夢みたいな世界を楽しんでいただけたら、雨蛙はこれ以上ないほど幸せです！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年2月7日 17時
