鯨骨生物群集：41 ページ47
グルッペンの死骸の上を踏み締めた。貴方の死骸とは随分違って、柔らかさを感じない。そりゃ、腐ってしまったせいでぐちゃぐちゃのグニグニなのは変わらないけれど、何というか、女性のような柔らかさを感じないのだと思う。
「っと、ナイスキャーッチ！」
「だっ、いった。俺のことも支えろや！！腰打ったやんけ！！」
「重量オーバーでーす。姉さん、あんなのほって先行きましょ」
「しょっぴ！！」
すっぽりとしょっぴの腕に収まってしまったAは、知らない場所に来たのだという状況に興奮からか胸をどくどく打ち鳴らしていた。不安定にかかる重力にバランスを崩したのか、どてっとチーノが尻餅をつく。堪えきれずに笑ってしまえば、少し不貞腐れたようにAの袖をきゅっと掴んできたチーノに、加護欲のような、母性みたいな、そんな感情がきゅんと根付いた気がした。
「うぉ、暗…」
一歩足を踏み込めば、そこは未知で溢れた世界だった。
中は冷たくて、びっくりするくらいに寒い場所。
母のような温かみを感じない。自分がこの死骸に歓迎されていないことがヒシヒシと肌から伝わってくる。
「どーします？探検」
「っいややココ。帰ろ？姉さん」
「ビビリやなぁw」
「なんとでも言え！」
兄弟の中でも群を抜いて背の高いチーノが、いつもよりもずっと小さく見えた。Aの服を引っ張ってちまちま後ろをついて歩く様はカルガモの親子を彷彿とさせる。対してしょっぴは、知らない場所への恐怖心など母の子宮に置いてきたと言わんばかりにズンズン突き進む。進むしょっぴと止まるチーノ。正反対なのに似ているのだから、まったく、面白いと思う。
暗い腐肉の洞窟は、我が家よりもずっとずっと居心地が悪い。それがなんだかダンジョンのようで少しワクワクする気もした。
壁に手を当てると、とうの昔に死んだはずのグルッペンの肉が、少し温かいように感じた。心なしか、脈打っているような気もする。肉壁から腐肉を抉り取って、それから口の中に放り込んでからAはハッとして笑った。興奮に打ち震えているのはグルッペンの死骸ではなく、他でもないA自身だったのか。腹から燻るように、Aは笑った。笑う、笑う。
母のソレとは少し異なる、独特なすえた味のするグルッペンを咀嚼して喉奥に流し込んだ。肉らしい肉の感触に、Aは顔を顰める。
胃に流れ着いたグルッペンの鱗片に喜ぶように打ち震える母の残り香を、Aは嘲笑った。
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雨蛙躑躅(プロフ) - コメント返信のやり方を漸く理解いたしました‼︎返信が遅くなってしまい誠に申し訳ございません🙇♀️コメントをくれた皆様、大好きですぞ〜！！ (4月14日 12時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - 惨事さん» コメントありがとうございます！だんだん全てが覆って、次第に壊れて何もかもが無くなる、かもしれないですね！汚く醜い生態系に存在価値があるのかどうか、雁字搦めになりながら沢山想像して欲しいです！これからも完結目指して頑張ります！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - かぼちゃピースさん» コメントありがとうございます！この深海で紡がれる不安定な生態系にアナタが雁字搦めにされていたら、作者はとても嬉しいです！これからも頑張ります！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - まるちゃん生麺さん» コメントありがとうございます！ちゃんと貴方のしきゅ…お腹から生まれている唯一の、おっと。ここまでにしておきましょう！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - リトマス試験紙さん» ありがとうございます！沢山の方々にお気に入り登録や評価、コメントをもらえて雨蛙は本当に幸せです‼︎コメントが届く度に飛び上がって喜んでます！雨蛙の描く悪夢みたいな世界を楽しんでいただけたら、雨蛙はこれ以上ないほど幸せです！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年2月7日 17時
