鯨骨生物群集：40 ページ46
「姉さん〜、A姉さん、っ、姉さん！！ちょ！もう、無視せんといてください！俺らの事なら好きに使ってもええと思っとるやろ⁉︎…………いや、その。あれやん、ちゃうやんか。否定はせんけどさぁ」
ふわふわとした浮力に内臓が持ち上がる感覚がした。チーノに握られた手がなければ何処かへ飛んでいってしまいそうなくらい、水に自重が支えられている感覚があった。Aの小さな手が持つランタンが、真っ暗な深海をぼんやりとオレンジ色の光で照らしている。
嬉しそうな顔で笑うチーノがくれた不思議なランタン。
水中で光るランタンだなんて、一体何処で見つけたのだろうか。
「危なくないん？やって、外とか見たことしかないで⁉︎冒険にも程がありすぎるでしょ！危険！！！！」
「ちょ、チーノ声でかい」
「お前は心配じゃないんか⁉︎姉さんが怪我したらどうするんや！！」
「水中じゃ何言っとるかわからんなぁ〜姉さん、早よ行きましょ」
「しょっぴ！！っおま、この！！」
Aは醜くも腐り、崩れかけるグルッペンの死骸を見下ろした。生前の美しかった赤い瞳は何処へ消えてしまったのだろう。骨が軽く露出しているおかげで頭の位置は分かるのだが、眼球の位置はもはや分からないほどに死骸は原型を失っていた。
「ぐるっぺん…」
死んでしまった父の死骸からは、生前の美しさなど毛ほども感じ取れなかった。愛しい、可愛らしい。腐っていてもなお、こんなにも愛らしいだなんて。母の父に抱いていた感情が自分の中を蝕む様な感覚に、Aはクラクラした。下腹部がきゅんと疼いて、記憶のフラッシュバックやなんかに頭が割れそうだった。
グルッペン。死んでしまったの、貴方。
母か父が、どちらが先に死んでいたのだっけ。多分同時に。これから死ぬ人間だとは思えないほど幸せそうな顔をして死んでいったのをAは覚えてる。
Aは好きじゃない。けれど、記憶が、体が、グルッペンを愛していると叫んでいる。あの死骸にすぎない元人間の男の肉塊が、何故か、可愛らしくすら思えてしまう！グルッペンを全身で求めてしまう自分に吐き気すら感じながらAは助けを求めるように、空いてるもう片方の手でしょっぴに縋りついた。
「姉さん、探検。行くんでしょう？」
妖艶に笑うしょっぴに手を引かれ、Aは生まれて初めて愛しい我が家を飛び出した。黒い水でできた、支えなどない足場を懸命に蹴って、グルッペンの死骸に辿り着こうともがいた。
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雨蛙躑躅(プロフ) - コメント返信のやり方を漸く理解いたしました‼︎返信が遅くなってしまい誠に申し訳ございません🙇♀️コメントをくれた皆様、大好きですぞ〜！！ (4月14日 12時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - 惨事さん» コメントありがとうございます！だんだん全てが覆って、次第に壊れて何もかもが無くなる、かもしれないですね！汚く醜い生態系に存在価値があるのかどうか、雁字搦めになりながら沢山想像して欲しいです！これからも完結目指して頑張ります！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - かぼちゃピースさん» コメントありがとうございます！この深海で紡がれる不安定な生態系にアナタが雁字搦めにされていたら、作者はとても嬉しいです！これからも頑張ります！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - まるちゃん生麺さん» コメントありがとうございます！ちゃんと貴方のしきゅ…お腹から生まれている唯一の、おっと。ここまでにしておきましょう！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - リトマス試験紙さん» ありがとうございます！沢山の方々にお気に入り登録や評価、コメントをもらえて雨蛙は本当に幸せです‼︎コメントが届く度に飛び上がって喜んでます！雨蛙の描く悪夢みたいな世界を楽しんでいただけたら、雨蛙はこれ以上ないほど幸せです！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年2月7日 17時
