鯨骨生物群集:38 ページ42
脳味噌を食べたって、兄弟なんて存在しないウツには何をすることもできなかった。
「トント〜ン、来ちゃった♡」
「帰れ」
くだらない愛に人生を狂わされた男の記憶を辿るにも、体の中を冒険するにもとっくの昔に飽きてしまった。貴方の死骸に根を張ったトントンとの出会いは、退屈に狂いそうだったウツにとってまさに転機で、つまらないウツの日常は一変した。
「こうしようや、俺はお前のにいちゃんで1番目。髪の毛に根っこはやしたウツにいちゃん。トントンは2番目。どうや?」
1人は退屈でつまらないから、なんて単純な理由からだった。1人は寂しい、暗くて寒い深海で迂闊にもグルッペンに根を生やしてしまったウツは、誰よりもそれを知っていた。1人で生きることができないウツは、血の繋がりのないツギハギ家族になりきる他なかったのだ。
「あちゃー、隠れてまった。どうもぉウツですぅ。Aのにいちゃんやで。ここじゃぁ、一番最初に根っこ生やしとるんよ。Aは?どこ食ったん?」
初めてAを見た時、ウツは一目惚れだとか度肝を抜かれるなんて言葉の意味をようやく理解できた気がした。動くちまっこいAは、記憶で見た貴方と似ているようで全く違う生命体だった。ウツは興奮に打ち震えた。似ている、自分に、よく似ている。完全なようで誰よりも不完全なAは、不出来な影武者のようで!それが何よりもウツの心臓を突き動かした!
「ああ〜、母さんが生きとったらあんな感じやったんかなぁ?」
誰が言ったかも覚えていない、心底どうだっていい独り言。それを軽くあしらって、ウツは義弟達を嘲笑った。お前らは所詮、Aをママの生き写しとして愛しているかもしれへんけど俺は違う!Aを、Aだから愛してるんや!可哀想なA、俺なら身代わりだとか誰かの代わりにするでもなく、お前自身を愛してやれるよ。グルッペンの記憶の中の貴方が笑った。それを掻き消すようにウツはAの姿を思い描く。
可愛いA、可哀想なA。
「あ"あ"♡A、AAA♡」
兄弟がAに狂わされていく様は大層気の悪いものだった。アイツらの好きが母からAに移ろっていく情景はウツを柄にもなく焦らせた。油断の招いた結果だと言えばその通りだった。苦汁を啜るような思いに顔を顰める。
「グルちゃん、さっさと消えて無くなってはくれへんか」
家ですらない父に、一体何の価値があると言うのか。
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雨蛙躑躅(プロフ) - コメント返信のやり方を漸く理解いたしました‼︎返信が遅くなってしまい誠に申し訳ございません🙇♀️コメントをくれた皆様、大好きですぞ〜!! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - 惨事さん» コメントありがとうございます!だんだん全てが覆って、次第に壊れて何もかもが無くなる、かもしれないですね!汚く醜い生態系に存在価値があるのかどうか、雁字搦めになりながら沢山想像して欲しいです!これからも完結目指して頑張ります! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - かぼちゃピースさん» コメントありがとうございます!この深海で紡がれる不安定な生態系にアナタが雁字搦めにされていたら、作者はとても嬉しいです!これからも頑張ります! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - まるちゃん生麺さん» コメントありがとうございます!ちゃんと貴方のしきゅ…お腹から生まれている唯一の、おっと。ここまでにしておきましょう! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - リトマス試験紙さん» ありがとうございます!沢山の方々にお気に入り登録や評価、コメントをもらえて雨蛙は本当に幸せです‼︎コメントが届く度に飛び上がって喜んでます!雨蛙の描く悪夢みたいな世界を楽しんでいただけたら、雨蛙はこれ以上ないほど幸せです! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨蛙 | 作成日時:2024年2月7日 17時