鯨骨生物群集

鯨骨生物群集：29 ページ32

「エミさーん、遊びに来たよ〜。おるよなぁ？入んでぇ」

「あちょ、本！本踏んでます！！片付けるのでちょっと待ってくださいゾムさん！！！！」

「にしてもきったない部屋やなぁ。物だらけやん」

「急に来たくせに文句言わんといてください！！あ、Aさんもいらっしゃい。…⁉︎、ちょっと待って、まだ入らないで！！！！ゾムさん！！！！」

昼食後のことだった。チーノ達とご飯を食べた後、いきなりゾムに抱えられ現在に至る。お米様抱っこ、米俵でも抱いてんのかと問いたくなる抱え方で爆速で走るゾムに軽く恐怖を感じながら両手をジタバタさせることしかできないA。風に細めていた瞼を上げると、そこは初めて訪れるエーミールの部屋であった。

汚いというよりも、ごちゃごちゃした機械室を思わせる部屋だった。大きな腐りかけている木の本棚に、水でふやけて読むことすらままならないであろう本が丁寧に仕舞われている。金属製の机は錆びており、表面をフジツボでびっしりと覆われている。机の上には、地球儀だとか、表面のガラスが割れてしまった羅針盤、火のつくはずもない蝋燭の入ったランプなどがインテリアとして鎮座している。薄汚れた木のパイプタバコに万年筆やらが差し入れて立てられているあたりを見るに、使い方までは分かっていないのだろう。

Aは絵の具は剥げかけ、すっかり軸の錆びてしまった地球儀をそっと撫でた。劣化した表面は少しザラザラしている。

「おや、Aさん。それに興味があるんですか？」

「これはね、眼球計って言うんですよ！」

ふんす、と鼻息荒くエーミールはドヤ顔をかました。それから地球儀、もとい眼球計の使い方を説明しだす。白いエーミールの頬は、興奮からか少し赤く染まっている。

「ほら、見てください！眼球みたいな形をしているでしょう？軸があるので恐らく、昔は回るような構造だったのだと思うんですけど、ほら、見てください！この筋、神経の通り方を模しているんですよ！それから、これ！型は少し歪ですが、瞳孔に見えませんか⁉︎」

筋は経線と緯線、瞳孔はユーラシア大陸だった絵の残りであるのだろうが、エーミールはこの地球儀を眼球を模したものだと思っているようだ。貴方の記憶からそれが地球儀であることを知っているAが、エーミールの世界を否定してしまうことは容易かった。しかし、興奮したように語るエーミールを見れば、その夢を破壊することなどとてもAにはできなかったのだ。

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