鯨骨生物群集:17 ページ19
「…ォ、?おはよ、ぉ。チーノ、しょっぴ」
「う"ぅ、ん?…ね、さ」
布団は2人の部屋に持っていってしまったから硬い床の上で寝苦しい夜になるのであろうとAは思っていた。背中が痛くない。不思議に思って寝起きの霞む両目を擦ると、チーノに抱えられながら寝ていたからだと気がついた。当の本人…Aを抱えたチーノは、まだ眠そうに唸っている。しょっぴに関しては起きてすらいないので、寝起きが悪いのだろうか、なんて新たに知った可愛い弟の一面にAは顔を綻ばせた。
「ご飯、取ってくる、ねェ」
チーノの腕を退けて軽く身なりを整える。思いの外強く抱きしめられていたようで、抜け出すのに苦労した。
「ね、さ。お、俺も…行きます」
「んふふ、大丈夫、チーノ。マだ寝ても、いいんだ、ヨ」
昨日教えた、Aの部屋の隣。自分達の自室で寝てもよかっただろうに、わざわざ一緒に寝たのは、2人が少しずつAに懐いてきたからだろうか…なんて、Aは笑った。
2人を置いて、Aは自室を出た。朝早いからか、冷たい深海の水は、いつもよりもずっとずっと冷たいようにAは感じた。Aはこの冷たさに慣れているけれど、2人は、昨日生まれたばかりの弟達は、もしかしたら、冷たい水に凍えてしまうかもしれない。そんな心配からAの部屋に残った薄い毛布を一枚だけ、2人にかけてから部屋からそっと出ることにした。別に家出とかそんなことではなくて、単に朝ごはんを2人に持ってきてあげようと、そう思い立っただけ。よく知っているはずのリビングへの道のりを歩くAの足は、いつになく軽かった。
「んー?ああ、Aチャンかぁ。おはよォ、今日も早いねぇ。えらいでぇ〜‼︎」
「ウツ、お兄ちゃん。おは、よぉ」
「うん、おはよぉ」
リビングでは、ウツとトントン、コネシマの3人が先に食事をとっていた。軽く挨拶を交わせばウツが頭を撫でながらAの分のご飯も皿に取り分けてくれたので、ありがたく頂きながら席に着いた。
「い、ただきまぁ、す!」
肉、いつもと同じ、腐った母の体。それでも咀嚼した肉塊の味がいつもと少し違うように感じられるのは、Aが弟の誕生に喜びが隠しきれないせいだろうか。腐った脂の味が、いつになく美味しくてAは泣きそうになった。2人にはお腹いっぱい食べさせてあげたいし、何不自由なく育って欲しい。そんな甘い戯言にAは頬を緩めていた。
229人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雨蛙躑躅(プロフ) - コメント返信のやり方を漸く理解いたしました‼︎返信が遅くなってしまい誠に申し訳ございません🙇♀️コメントをくれた皆様、大好きですぞ〜!! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - 惨事さん» コメントありがとうございます!だんだん全てが覆って、次第に壊れて何もかもが無くなる、かもしれないですね!汚く醜い生態系に存在価値があるのかどうか、雁字搦めになりながら沢山想像して欲しいです!これからも完結目指して頑張ります! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - かぼちゃピースさん» コメントありがとうございます!この深海で紡がれる不安定な生態系にアナタが雁字搦めにされていたら、作者はとても嬉しいです!これからも頑張ります! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - まるちゃん生麺さん» コメントありがとうございます!ちゃんと貴方のしきゅ…お腹から生まれている唯一の、おっと。ここまでにしておきましょう! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - リトマス試験紙さん» ありがとうございます!沢山の方々にお気に入り登録や評価、コメントをもらえて雨蛙は本当に幸せです‼︎コメントが届く度に飛び上がって喜んでます!雨蛙の描く悪夢みたいな世界を楽しんでいただけたら、雨蛙はこれ以上ないほど幸せです! (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雨蛙 | 作成日時:2024年2月7日 17時