鯨骨生物群集：13 ページ15
調理された肉塊にフォークを突き刺す。
咀嚼すれば肉は溶けるようにしてAの口の中から消えた。半端腐ったその肉は、Aの口にえもいえぬ不快感を残していく。
家であり、母であり、食材である。マザーの腐肉、貴方の死骸であった。
食事には飽きていた。来る日も来る日も同じ味、同じ腐肉。それでもココにいる生物が貴方の死骸を貪るのは、愛するマザーと一つになれる、そんな戯言が彼らの頭の中をぐるぐる回っているからに違いない。だってそうでなきゃ、貴方に芽吹いた意味がない。子供というには自我がありすぎて、他人というには貴方に近過ぎる。彼らは、そんな不安定で歪な存在である。
食べた。歯で噛み砕くまでもなく、溶け出す腐肉を飲み下した。腐った脂の味を、唾液と共に飲み込んだ。
Aは知っている。
以前、ゾムに受けた食害によって吐いてしまったAの吐瀉物は、貴方の死骸は、エーミールがその胃に収めることで一滴も無駄にはなっていないということを。
Aは食事を終えた後、口の周りについた脂を手元で拭った。ぬらぬらと光る掌に舌を這わせると、やはり、先程まで食べていた愛しいマザーの味がした。
Aの死骸だって、きっと、こんな風にとびきり美味いに違いない。
だってマザーの生き写し。貴方の脳味噌に根を張ったAは、他のどの兄弟よりも濃く、深く、貴方のことを知っている。Aの食事という行為は、きっと、自身の体を自ら貪るような、そんな倫理に背いた、ヒトの道から踏み外れたモノに違いない。けれども、一体、それになんの問題があるというのだろう？母の乳を飲む、自らの胎盤を食す。そんなヒトの営みとマザーの死骸を貪るAには、それほど大きな違いがあると果たして言えるだろうか。
そもそも、ヒトモドキな彼らに、ヒトのルールを求めるなど、それ自体が間違いなのではないか。だってココは、マザー、貴方の生み出した楽園！ここでのルールは、貴方によって生まれているのだから！
愛、自らの体を与える貴方。それを享受し、いつまでも子宮に留まり続けているだけの生命体共。不思議な海の底に沈んだ生態系は、今日も、愛しい貴方のおかげで、不安定ながらも成り立っている。
彼らがAに、アナタに依存しているのは。今は亡き愛しいマザー、貴方にアナタを重ねているからか。アナタが愛しいからか。果たしてそれは、愛だと言えるのか。
少なくとも、彼らは笑って頷くのだろうが。
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雨蛙躑躅(プロフ) - コメント返信のやり方を漸く理解いたしました‼︎返信が遅くなってしまい誠に申し訳ございません🙇♀️コメントをくれた皆様、大好きですぞ〜！！ (4月14日 12時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - 惨事さん» コメントありがとうございます！だんだん全てが覆って、次第に壊れて何もかもが無くなる、かもしれないですね！汚く醜い生態系に存在価値があるのかどうか、雁字搦めになりながら沢山想像して欲しいです！これからも完結目指して頑張ります！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - かぼちゃピースさん» コメントありがとうございます！この深海で紡がれる不安定な生態系にアナタが雁字搦めにされていたら、作者はとても嬉しいです！これからも頑張ります！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - まるちゃん生麺さん» コメントありがとうございます！ちゃんと貴方のしきゅ…お腹から生まれている唯一の、おっと。ここまでにしておきましょう！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - リトマス試験紙さん» ありがとうございます！沢山の方々にお気に入り登録や評価、コメントをもらえて雨蛙は本当に幸せです‼︎コメントが届く度に飛び上がって喜んでます！雨蛙の描く悪夢みたいな世界を楽しんでいただけたら、雨蛙はこれ以上ないほど幸せです！ (4月14日 12時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年2月7日 17時
