まるごと好きです (ページ6)

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カエルの釜茹で　in ut ページ6

従姉妹がいた。俺より２つ歳下の、ふわふわの癖っ毛が可愛い子だった。
いつから一緒にいたとか、そういったことはあまりハッキリとは分からない。
気が付いたら、あの子は俺の後ろをちょこちょことついてまわっていたから。
あの子は、俺が自分の他に親しい人を作る事をひどく嫌がった。
お兄ちゃんを取られたくないのかな、とそう漠然と考えて、あの子の小さな独占欲を可愛いで片付けていた。
距離が、異様に近かった。
どこへ行くにも常に手を繋いで、寝る時だって一緒に寝ていた。
自分達以外の従兄弟の距離感なんて知らない俺は、それが普通なのだと、中学生くらいの頃まで本気で思っていた。
あの子の行動の全ては家族に向けるソレだと、そう信じて疑ったことすら無かったのだ。

「鬱にぃ、好きやで」

あの時俺は確か、「俺も」と返した筈だ。
家族愛とはとても言い難い、男が女に向けるようなどうしようもない愛情を、俺達は互いに抱え込んでいた。
それはまだ二十歳にも満たない子供が抱えるには重すぎるものだった。

「鬱にぃ、私な、彼氏できたの」

初恋は実らないとは良くいったものだ。
俺の場合、そんなキラキラとした高尚なものでは無かったけれど。
お前の幸せが俺の幸せだなんて言えるほど、俺の感情は煌びやかなものでは無かった。
もっとグズグズに腐りきっていて、おおっぴらには出せない感情。
嬉しそうにスキップなんてしながら去ってゆく従姉妹に、不幸になってしまえなんて、ついそこそこ大きめな心の声が溢れ出る。
幸いあの子には届かなかったようで、安堵が落胆か分からない感情が胸の中でぐるぐると蜷局を巻き出す。
抜け出せなかったんだ。
気が付いたら周りの水は沸騰していた。
あの子の少しの異常性に、それ以上に自分の異常性に気が付けなかった。
だから、水の温度変化に気付けず茹で上がるカエルのように、俺はあの子に溺れて捨てられた。
でも、それでも良いかなんて思えてくるのだから、もう笑うしかない。