まるごと好きです (ページ5)

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微笑む貴方　in ci ページ5

自分に向かって柔らかく微笑むAに、チーノは満遍の笑みを返した。
柔らかな茶色の猫毛が､風に吹かれて優しく揺れている。紫の滲む儚気な瞳が､チーノだけに視線を注いでいる。白く滑らかな肌が、光を吸収して神々しく輝いている。
自分に対して愛おし気に微笑むAのこの表情が、チーノは大好きだった。
愛しいAの頬を、チーノは優しく撫でる。手の平からは､金属のような冷たさを感じた。
優しく笑うAの表情が、チーノは好きだった。風に靡く髪の毛が、ふわりと香る優しいAの香りが､愛しくてたまらなかった。
だから､Aを殺した。微笑んだチーノの一番好きな表情で剥製にした。愛しさに、顔を歪める。チーノの瞳からは、恍惚が滲んでいた。
初めて彼女の微笑みを目の当たりにした時は､雷に打たれた様な衝撃を受けたことを、チーノは鮮明に覚えている。愛し気に細められた左右の瞳。可愛らしく傾げられた白い首筋。纏う雰囲気はまるで後光が差したようで､微笑むAにチーノは恋に堕ちた。
ただ、その視線の先はチーノでは無かった。愛情の滲み出たAの視線を辿ってゆく。皮肉にも、自分は、恋するAに恋してしまったようだった。
その表情が自分に向けられたものであったなら､どれほど良かったことだろう。
その視線が、自分だけの物になったならどれほど良かったことだろうか。

チーノにあの情欲の孕んだ視線が向けられることは無かったのだ。恐怖の滲んだ､侮蔑をも感じ取れる瞳。

だって、Aが愛したのは他人で、自分は愛されてなどいない。それだけのことだったから。

だから､自分の理想の表情のAを作った。Aの皮で、爪で髪で､骨で。

Aは今日も微笑んでいる。
チーノだけを、静かに見つめ続けている。