鯨骨生物群集：49 ページ5
「Aチャン、お茶会しぃへん？」
そんなウツの言葉に誘われて、手招かれて、Aは初めてウツの部屋に足を踏み入れた。色の濃い木の戸の向こう側。
中は、Aが思っていたよりもずっと汚かった。エーミールの部屋とは違って不衛生な感じがAに汚いと訴えかけていた。乱雑に服が掛けられた扉が開きっぱなしのクローゼット。布団のぐちゃぐちゃになったベッド。ものは大して多くはない筈なのだが、整理されていない感じがした。
「じゃーん、見てみて！？これなんやと思う！？なんとなぁ……クッキーっちゅうんよ！！！！」
眩しいくらいにヘニャリと笑って、ウツは嬉しそうに歪んだ缶を掲げた。少しだけ塗装のはげている缶。錆びていないところを見るに、随分新しい物なようであった。歪な形の缶の中には、水を吸って膨張した崩れかけのクッキーが二つだけ、入っていた。机の上を占拠していた服やら灰皿やらを床に払い除けて、物の消えて綺麗になった机の上にウツはクッキー缶をそっと置いた。棚の中から欠けかけたティーカップを二つ取り出すと、Aを椅子に座るよう促す。
足の腐りかけた椅子は、些か不安定な感覚を味わせた。
「Aちゃん、ソーサーの上にカップを置くんやで。…そう、あっとるよ！スプーン持ってくるな？ちょっと待っといて！」
それからウツは、錆びた銀のスプーンで何も入っていないAのカップの中をクルクルとかき回した。水流が起きて、軽く渦を撒き出す。満足そうに笑うと、Aにクッキーを差し出してウツは嬉しそうに言った。
「Aちゃん、あーん」
餌を与えられる雛鳥みたく、Aは馬鹿みたいに口をポカンと開けた。口の中に押し込められたクッキーから、仄かに甘い、バターの香りを感じて、Aはそれを必死に咀嚼した。美味しい、美味しいのだとAは思う。すえた味がしない、甘い、こんなに美味しい物を、Aは食べたことがない。舌を動かして、味を探す。ごくんと飲み込んでしまった後に、もうなくなってしまったのかとAは深く後悔した。そんなAに愛しげに笑みを溢しながらウツはAの頭を優しく撫でた。
「まだもう一個あるで？」
「…でも、それはウツお兄ちゃんの、じｬ……？？」
「ええよ、食べやぁ」
幸せそうに微笑むウツに勧められて、Aはおずおずと最後の一枚に手を伸ばした。ほろほろと崩れるそれを急いで口に運ぶと、先程と同じような甘さが広がった。
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雨蛙躑躅(プロフ) - 七瀬。さん» 温かいお言葉をありがとうございます！！色々と多忙な時期でして、時間の合間を縫って書いているような状況ではございますが、最後まで頑張ります！！コメント、本当にありがとうございます！！ (5月4日 8時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
七瀬。(プロフ) - すっごくすっごく面白いです！！！！この作品本当に大好きです！！作者さんの作品がどれも大好きです！！これからも頑張ってください！！ (5月2日 5時) (レス) id: 600689a398 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - えー、コメント返信の仕方を漸く理解いたしました！！遅くなって本当に申し訳ございません🙇♀️コメント毎回楽しく読ませてもらっています！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - ロリコン女さん» コメントありがとうございます！推していただけるだなんてものすごく嬉しいです！この作品は割と世界感や流れを考え抜いてから産んだものなので、そんな風に言っていただけるだなんて、とても嬉しいです！これからもよろしくお願いします！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
ロリコン女 - とても、とても好きです。文の書き方とか、きちんとキャラに沿って表現されてたりとか、体の機能を力として綴られてたりとかするところがもう、ほんとに、好きです。推します。 (2月25日 23時) (レス) id: a814b6a8d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年2月23日 21時
