鯨骨生物群集：48 ページ4
チーノに抱き抱えられながら、Aはよく馴染んだ我が家へと足を踏み入れた。グルッペンの死骸よりもとろとろと溶け出す貴方に愛しささえ込み上げた。
母さん、グルッペンを食べました。
母さん、私はより、貴方に近づけたでしょうか。
見た目だけともいえる母の名残を抱きしめるように、Aは笑った。指先の消えた大きな骨ばった手でしょっぴがAの頭を撫でた。ムッとするような血の香りにむせ返りそうになる。紫瞳が海水に滲むように、溶けるように。Aを見つめて歪む。
不自由のきかない状況に不満げに手足をバタバタさせるとチーノが少し眉を顰めた。
「姉さん、あんま動かんといて」
ふわふわの水色の癖っ毛がゆらゆらと揺れた。灯りに、揺れる陽炎に腐肉の破片が舞っていた。ビン底眼鏡が光に反射してチーノの橙色の瞳を隠してしまう。Aは、その瞳が怒りに吊り上がっていることを知っていた。理由が他でもない自分自身であるということも。
自分よりもずっと大きなチーノの体をAが抱き締めたのなら、その髪を掻き撫でたのなら、チーノは笑ってくれるだろうか。そうしたら、チーノの泣きそうな顔も、キツく噛まれた唇も、膜を張る涙も、全部全部なくなってくれるのだろうか。
可愛い弟、大切な弟。
どちらも目に入れても痛くないくらいには可愛くて、優劣だなんてつけられる筈もない。それでも、チーノもしょっぴも、自分達を兄よりも優に、あわよくば自身を誰よりも優に、そして自分以外を劣にを望んでいるから、Aは困惑に頭を痛めていた。どちらも、叶うのなら兄もみんな、Aは受け止めて愛したい。しかし、それを彼らは望まない。
母さん、愛しい母さん。貴方ならどうしたの。
母さんなら、みんなまとめて愛に満たすことができたの。
所詮、どこまで行っても貴方の見た目をコピーしたに過ぎないAでは、どうして良いのか分からない。母への愛が、自分に注がれているという現実を受け止めきれない。酸素に溺れるように、水で根腐れする植物のように。彼らの愛は重すぎる。けれど、否定することすらできないのは、グルッペンを愛した貴方のように、Aもまた、彼らを愛しているからか。歪み過ぎて愛とも呼べない腐った感情をも受け止めようとしている自分に、Aは呆れたようにため息を溢した。
いずれ彼らに殺されるのならば、母を喰らったように。母に根付いたように。彼らにAのことを食って欲しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 204人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雨蛙躑躅(プロフ) - 七瀬。さん» 温かいお言葉をありがとうございます！！色々と多忙な時期でして、時間の合間を縫って書いているような状況ではございますが、最後まで頑張ります！！コメント、本当にありがとうございます！！ (5月4日 8時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
七瀬。(プロフ) - すっごくすっごく面白いです！！！！この作品本当に大好きです！！作者さんの作品がどれも大好きです！！これからも頑張ってください！！ (5月2日 5時) (レス) id: 600689a398 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - えー、コメント返信の仕方を漸く理解いたしました！！遅くなって本当に申し訳ございません🙇♀️コメント毎回楽しく読ませてもらっています！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - ロリコン女さん» コメントありがとうございます！推していただけるだなんてものすごく嬉しいです！この作品は割と世界感や流れを考え抜いてから産んだものなので、そんな風に言っていただけるだなんて、とても嬉しいです！これからもよろしくお願いします！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
ロリコン女 - とても、とても好きです。文の書き方とか、きちんとキャラに沿って表現されてたりとか、体の機能を力として綴られてたりとかするところがもう、ほんとに、好きです。推します。 (2月25日 23時) (レス) id: a814b6a8d8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年2月23日 21時
