鯨骨生物群集：47 ページ3
Aの舌が指に当たってくすぐったかった。温かいAの口内で唾液に指が濡れるのが分かる。突然のことに、息の仕方を忘れたように苦しみ喘いで必死にか細く呼吸するAが愛しかった。
「姉さん、食べてください」
瞳孔の揺れるような、焦点の定まらないしょっぴの瞳の中で愛しい姉が揺れている。
激情に身を染めるしょっぴを、侮蔑の色の滲む瞳でチーノが見つめていた。
「姉さん、食べて」
Aはしょっぴの指を軽く歯を立てるようにして噛んだ。くつくつ喉の奥を鳴らしながら、しょっぴは笑って優しくAの頭を撫でる。
「ちゃいます。噛みちぎってください」
しょっぴの汗がAの頬に滴り落ちて、海水に溶けた。ブツリとAの歯がしょっぴの指の皮膚を破くと、しょっぴは痛みに少し顔を顰めた。けれど、それが幸福と生理的顔の歪みの入り混じった顔だったから、Aは食べることをやめるにもやめられず、今度は骨を噛み砕くように一層強く歯を立てた。
「い"っ、あ"。っ、んふふ、姉さ」
ブチっと、しょっぴの指の第二関節の辺りから先を食い千切る。ゴリゴリとした骨の食感と柔らかいそれを覆う皮膚を味わうように咀嚼した。指の筋肉にシャキシャキとした筋の切れる歯応えを感じる。血の塩っけと肉の味は、今までAが食べたどんなものよりも美味しかった。すえた味のしない、生きた肉。可愛い弟の指。それが怖い。食べたくない。そんな思いとは裏腹に、Aはしょっぴの指の断面に舌を這わせた。痛みにしょっぴが声を上げた。
「い"、」
気味の悪い食事である。
それでもどこか美しい。そんな光景にしょっぴは固唾を飲んだ。こくりこくりと情欲にしょっぴの喉仏が上下する。
先のない指を恍惚に歪んだ笑みを湛えながら見つめ、しょっぴは心底幸せそうに笑ってAの上から退いた。ふらふらとへたり込むAをチーノが優しく抱き締める。
「あ"ぁ！良かったｧ！姉さんは、姉さンなら俺のこと、ちゃんと、ちゃんと食べてくれるって信じてました！！！！コンナ死骸のせいで口ん中汚してまって、でも、でも口直しに食べてくれましたね！！俺、ほんま嬉しいんです。姉さん、んふふ。コネシマでもウツでもチーノでもない！！初めて姉さんに食われた生きた生物はこの俺なんや！！」
しょっぴに冷えた視線を送りながら、チーノは言った。
「帰ろうや、死骸以外なんもなかったやろ」
全くその通りだ。ここには腐った死骸しかない。
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雨蛙躑躅(プロフ) - 七瀬。さん» 温かいお言葉をありがとうございます！！色々と多忙な時期でして、時間の合間を縫って書いているような状況ではございますが、最後まで頑張ります！！コメント、本当にありがとうございます！！ (5月4日 8時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
七瀬。(プロフ) - すっごくすっごく面白いです！！！！この作品本当に大好きです！！作者さんの作品がどれも大好きです！！これからも頑張ってください！！ (5月2日 5時) (レス) id: 600689a398 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - えー、コメント返信の仕方を漸く理解いたしました！！遅くなって本当に申し訳ございません🙇♀️コメント毎回楽しく読ませてもらっています！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - ロリコン女さん» コメントありがとうございます！推していただけるだなんてものすごく嬉しいです！この作品は割と世界感や流れを考え抜いてから産んだものなので、そんな風に言っていただけるだなんて、とても嬉しいです！これからもよろしくお願いします！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
ロリコン女 - とても、とても好きです。文の書き方とか、きちんとキャラに沿って表現されてたりとか、体の機能を力として綴られてたりとかするところがもう、ほんとに、好きです。推します。 (2月25日 23時) (レス) id: a814b6a8d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年2月23日 21時
