鯨骨生物群集：57 ページ13
Aがグルッペンの肉を食べてから、どれだけの時間がたったことだろう。少なくともこの深海には時計はおろか、微かな陽の光さえ届かないのだから彼らにそれを知る術はない。まあ、かなりの時間が経過したことは何となくだが幼稚なAにも分かった。
父の体を食すという、人の道から大きく外れた非人道的な人として避けるべき禁忌を侵してしまったAに対する兄弟の反応は実に多種多様で、各々依存とも言えるほど入れ込んでいた愛しの妹の変貌っぷりに気を動転させていた。
それについて『可哀想』だなんて思ってやるほどの広い心を、残念なことにAは捨てていた。母である貴方の美しい容姿に、父グルッペンの冷酷とも言える圧倒的なカリスマを併せ持つAは美しかった。
それは綺麗さを望まない兄弟からしたら願ってもみなかった僥倖とも言えるような奇跡だったろうが、優しいAを愛した奴等からすれば息をするのも忘れたほどに受け入れ難い事実だったに違いない。
少なくともロボロは、その事実を認めたがらなかった。
だって、ぬいぐるみを笑って受け取ったAも、 ロボロの名を優しく呼んだあの声も、ロボロを見つめた濡れるように輝く瞳も、海藻の如く海流にたなびく艶やかな黒髪も、全部全部、あの貴方に根付いたAなのであって、それは子として正しく父を得たAではない。
Aはどんなにロボロが気色の悪いことを言おうが、ちょっと困ったように笑って受け入れてくれるし、話し方だってロボロに引けを取らないくらいには拙くて聞くに耐えないほどに不快であるし、足取りは覚束無いし、常に笑って周囲を包み込んでくれるし、少し脅せば可哀想に涙を流して怯え始めるのだから。
そう、Aとはそうあるべきなのである。
だから、虫螻を見るような目で見下すAは間違っているし、流暢に美しい声で話すAは可笑しいのであり、堂々と脚の使い方を理解したように歩くAは冒涜にも等しく、意思のある顔でグルッペンを彷彿とさせながら脅しにも動じないAは最早Aではない。
そう、自分は間違っていない。
悪いのはAを狂わせたグルッペンなのだ！グルッペンを取り出さなきゃ、早く元のAに戻してやらなければならない！なんて可哀想な妹なのだろう、自分が救ってやらなくちゃ！
それがただの理想の押し付けに過ぎないことを理解する脳味噌を、残念なことにロボロは持ち得ていない。
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雨蛙躑躅(プロフ) - 七瀬。さん» 温かいお言葉をありがとうございます！！色々と多忙な時期でして、時間の合間を縫って書いているような状況ではございますが、最後まで頑張ります！！コメント、本当にありがとうございます！！ (5月4日 8時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
七瀬。(プロフ) - すっごくすっごく面白いです！！！！この作品本当に大好きです！！作者さんの作品がどれも大好きです！！これからも頑張ってください！！ (5月2日 5時) (レス) id: 600689a398 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - えー、コメント返信の仕方を漸く理解いたしました！！遅くなって本当に申し訳ございません🙇♀️コメント毎回楽しく読ませてもらっています！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - ロリコン女さん» コメントありがとうございます！推していただけるだなんてものすごく嬉しいです！この作品は割と世界感や流れを考え抜いてから産んだものなので、そんな風に言っていただけるだなんて、とても嬉しいです！これからもよろしくお願いします！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
ロリコン女 - とても、とても好きです。文の書き方とか、きちんとキャラに沿って表現されてたりとか、体の機能を力として綴られてたりとかするところがもう、ほんとに、好きです。推します。 (2月25日 23時) (レス) id: a814b6a8d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年2月23日 21時
