鯨骨生物群集：56 ページ12
もし、コネシマが、ちゃんと心臓を食えていたのなら。
なんて。コネシマは、あの時チーノを殺しかけたような力は使えず、きっと誰かに施しを与えるような、そんな慈愛に満ちた力を持って生まれたに違いない。誰かを殺しかねないような力ではなかった筈だった。
拙い生命とも言えぬ根を張る前のコネシマには、どちらが心臓でどちらが腫瘍かなど分かるはずもなく、運悪く、ただそれだけでたまたま、腫瘍を選んだに過ぎなかった。
それなのにことの他、その二択の結果はコネシマの生き方に干渉してきたのだ。
凄いねぇ、頑張ったねぇ。
きっと、きっときっと！他のどの兄弟にでも言うような、そんな何気ないAの一言に、コネシマが一体どれほど救われたことか、Aは知らないのだろう！
腫瘍を食ったなどと、それが原因で命を断った貴方の生き写しであるAに言えるわけもない！
それが真実を知らないAの口から溢れ出た何気ない一言だったとしても、それを無かったことにはしたくなかった。罪悪感と自己嫌悪に苛まれながら心を殺して生きた日々を漸く認めてくれたのが、一番コネシマを忌み嫌うべき存在であったなんてどんな皮肉なのだろうか。それでも、確かに。そんな皮肉にコネシマは救われたのだから。
だから、コネシマはそれだけで、誰よりもAのために生きられるのだ。
「そう、ですか。…ヨかった」
ヘニャリと笑ったAがやけに痛々しくて、コネシマは眉を顰めた。きゅっと唇を噛んだ。
性格の捻じ曲がったクソ野郎に落ちぶれた。本当に、落ちぶれてくれたのならば、クソ同士堕ちて行ける。唯一無二の存在になれたのに。
「唇、切れてしまいますよ」
残酷にも、それでも尚こんなにも優しいAは、きっとどこまでも非情に成りきれないから。だからきっと、コネシマはひとりぼっちのままなのであろう。それでも、それでも優しいAは堕ちゆくコネシマを1人にさせまいと、自ら堕ちてくれるに違いなかった。
「…俺が守るから、お前は落ちてくんなよ」
「そう、でも、もう多分、堕ち切ってしまってますよ」
頼りないほどに華奢な白い手首を握りしめて、Aのことは堕とすまいと痛いほどに思った。
きっと生まれた時から下落しきっているであろう自分に何が出来るというのか。
苦しくなるほどに優しい妹のためならば、母親である貴方のことだって殺せてしまう気さえした。
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雨蛙躑躅(プロフ) - 七瀬。さん» 温かいお言葉をありがとうございます！！色々と多忙な時期でして、時間の合間を縫って書いているような状況ではございますが、最後まで頑張ります！！コメント、本当にありがとうございます！！ (5月4日 8時) (
レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
七瀬。(プロフ) - すっごくすっごく面白いです！！！！この作品本当に大好きです！！作者さんの作品がどれも大好きです！！これからも頑張ってください！！ (5月2日 5時) (レス) id: 600689a398 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - えー、コメント返信の仕方を漸く理解いたしました！！遅くなって本当に申し訳ございません🙇♀️コメント毎回楽しく読ませてもらっています！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
雨蛙躑躅(プロフ) - ロリコン女さん» コメントありがとうございます！推していただけるだなんてものすごく嬉しいです！この作品は割と世界感や流れを考え抜いてから産んだものなので、そんな風に言っていただけるだなんて、とても嬉しいです！これからもよろしくお願いします！！ (4月14日 13時) (レス) id: 41dac67fa3 (このIDを非表示/違反報告)
ロリコン女 - とても、とても好きです。文の書き方とか、きちんとキャラに沿って表現されてたりとか、体の機能を力として綴られてたりとかするところがもう、ほんとに、好きです。推します。 (2月25日 23時) (レス) id: a814b6a8d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨蛙 | 作成日時：2024年2月23日 21時
