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優斗くんが亡くなったのは、こんなよく晴れた秋の日だった。
日曜日の部活に向かう途中、居眠り運転の車にぶつかったのだ。
部活着のまま病院に駆け込んだあの日のことをたぶん一生忘れない。
優斗くんの家族もみんな、このまま死ぬんじゃないかって勢いで泣いていた。
なのに、彼女は泣いていなかった。感情をなくした人形みたいに、優斗くんの青白い肌を見つめていた。
見ていられないほど日に日に崩れてやつれていく彼女の手を取ったのは、他でもない僕だ。
優斗くんの代わりでも何でもいい。俺がAちゃんを支えたいんだ。そう言えば君は、真っ赤な目を滲ませて俯いた。
言うなれば弱みに付け込んだのだ。絶対に手に入るはずのなかった彼女を支えて助けるふりをして、しれっと優斗くんのポジションを奪ってしまった最低な男。
なんであの日死んだのは、俺じゃなかったんだろう。
「ゆうくん、あのね」
重ねた手の親指で僕の手の甲を撫でながら、波の音に掻き消されそうな小さな声で呟いた。
僕たちは優斗くんの年齢を超えてしまった。
今頃優斗くんはどこで何をしているんだろう。こんなに惨めで格好悪い僕を見て、那須は何をやってるんだと怒っているのではないのか。
彼の大切な女の子を奪って隣に並んで、どんな気持ちでいるのだろうか。
「今日は、ゆうくんに話したいことがあって」
「……うん」
「ここに来たら、素直に話せる気がしたんだ。ワガママ言ってごめんね」
「ううん」
何を言ってるんだ。一緒にいて初めてワガママなんて言ったくせに。
彼女はいつも、僕の話をうんうんと聞いているだけだった。
話すネタが尽き過ぎて仕方なく数式の定理について語っても、君は楽しそうに(本当に楽しかったかどうかはかなり危ういけれど)那須くんはすごいねと笑って聞いているだけだった。
よく知らないけれど、この場所は確か彼女と優斗くんが初めて遠出をした場所だった気がする。この海をバックに二人で撮った写真を、出掛けた次の日に優斗くんが自慢げに見せてきたから。
写真の中の彼女の顔は、本当に幸せそうな笑顔だった。
恋人という肩書きになって二年近く経つけれど、僕はいまだにあれほど幸せそうな顔を見たことがない。
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りつ(プロフ) - しいさん» ありがとうございます嬉しいです!!幸せな気持ちになって頂けるようちまちまと更新していきます〜! (2017年10月2日 8時) (レス) id: 7c91888883 (このIDを非表示/違反報告)
しい(プロフ) - いつも読ませていただいては幸せな気持ちになってます!!これからの更新も楽しみにしています\(^o^)/ (2017年10月2日 2時) (レス) id: ff1ac2d1a8 (このIDを非表示/違反報告)
りつ(プロフ) - ふーさん» こちらこそお読み頂きありがとうございます〜!短い話ばかりですが少しでも暇つぶしになれば嬉しいです(*^o^*) (2017年8月21日 21時) (レス) id: 49628bd39a (このIDを非表示/違反報告)
ふー(プロフ) - りつさんのお話がまた読めて本当に本当に嬉しいです!!!!!!!ありがとうございます!! (2017年8月21日 19時) (レス) id: e57a3c666b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りつ | 作成日時:2017年8月21日 19時