だぶるゆうとの狭間で揺れる女の子 ページ40
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悲しくなるくらいよく晴れた青空だった。
こんな日は、君の涙を思い出して胸が苦しくなる。
海に行こう、と君は言った。
もちろん、と二つ返事で僕は君の手を取った。
君と一緒にいて、初めての君からの誘いだった。嬉しくて、それだけで、僕まで涙がこぼれそうになった。
「きれいだね〜」
「うん。きれいだ」
「足だけ入っちゃおうかな」
「良いけど、たぶんめちゃくちゃ冷たいと思うよ」
「だよねー。やめとこ」
堤防に二人並んで腰掛けて、ショートブーツを履いた足を君はゆらゆらと揺らした。
きれいだ、と言ったけれど、実際はきれいでも何でもない、きっと淀んだ汚い海だったと思う。
それでも君がきれいだと言うのなら、僕はそう頷くしかなかった。
潮の香りが君の長い髪をなびかせる。
出会った頃からずいぶんと君の髪は伸びた。誰のために伸ばしていたか、それは僕もよく知っている。
Aの髪はきれいだねと、恥ずかしそうに笑いながら言っていたかつての君の恋人の姿を、僕はつい昨日のことのように思い出せる。
「…ゆうくん?」
「んー…」
「びっくりした。どうかした?」
「なんでもないよ」
そっか、と言って君は笑った。
手持ち無沙汰だった彼女の手を、自分のものと重ねてぎゅっと握る。
冷たい手だ。だけど、その冷たさが心地よかった。
彼女は僕と恋人になった今でも、決して「ゆうと」と呼ぶことはない。理由なんて分かってるから無理強いはしない。
彼女の昔の恋人も「ゆうと」だった。
僕たちより二つ上の先輩で、野球部のキャッチャーで、僕とバッテリーを組んでいたひと。
誰からも好かれて明るくて優しい、まるで少年漫画の主人公みたいな、絵に描いたような溌剌としたひとだった。
そして彼女もまた、控えめだけど優しくて聡明な、かわいい女の子だった。
とてもお似合いの二人だった。
僕が入る隙間なんてないくらい、彼女は優斗くんのことを愛しているのが伝わってきたし、優斗くんも彼女のことを愛していた。
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りつ(プロフ) - しいさん» ありがとうございます嬉しいです!!幸せな気持ちになって頂けるようちまちまと更新していきます〜! (2017年10月2日 8時) (レス) id: 7c91888883 (このIDを非表示/違反報告)
しい(プロフ) - いつも読ませていただいては幸せな気持ちになってます!!これからの更新も楽しみにしています\(^o^)/ (2017年10月2日 2時) (レス) id: ff1ac2d1a8 (このIDを非表示/違反報告)
りつ(プロフ) - ふーさん» こちらこそお読み頂きありがとうございます〜!短い話ばかりですが少しでも暇つぶしになれば嬉しいです(*^o^*) (2017年8月21日 21時) (レス) id: 49628bd39a (このIDを非表示/違反報告)
ふー(プロフ) - りつさんのお話がまた読めて本当に本当に嬉しいです!!!!!!!ありがとうございます!! (2017年8月21日 19時) (レス) id: e57a3c666b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りつ | 作成日時:2017年8月21日 19時