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ご飯食べた?なんてありふれた会話をして、お互いに黙る。先に沈黙を破ったのは、私だった。
「……失敗、しちゃった。本番なのに。みんなが期待してるの。強化指定選手だし、国の代表……だから。
相応しい演技をしないといけないのに、できなくて……」
"イ・A、まさかの6位発進。拠点を移したのは失敗か"
自分のことについて書かれたネットニュースの見出しを思い出してひゅっと息が詰まる。自分のことだけならまだしも、コーチのことも悪く書かれていて申し訳なさでいっぱいだった。
「……結果を、出さないといけないのにっ」
月の光でさえ、今のわたしにはすごく眩しくて。
このままどこかへ隠れてしまいたい、現実に向き合いたくないと心が叫ぶ。
「A」
「……な、に?」
やめて。そんなに優しい声で、名前を呼ばないで。
弱いわたしが、オッパに甘えようとするから。
「良くやってるよ」
オッパの柔らかい声で紡がれた言葉に、胸がぎゅっとなって涙がぽろぽろとこぼれる。あぁ、私は誰かに認めて欲しかったのかも。
「大丈夫。Aには俺がいるでしょ」
「う、ん」
嗚咽が聞こえたのか「泣いてるの?」と心配そうなオッパの声。
「泣いてない」と答えれば、それ以上追求されることはなかった。私の小さな強がりに付き合ってくれるらしい。
「今すぐ、飛んでいけたらいいのに」
「っ、オッパ」
「Aが苦しいときに側にいれないなんて、幼馴染失格だなぁ」
「そんなことない」と被せ気味に伝えると、電話の向こうで息を飲むのが聞こえる。本当は私も会いたいけど。電話だけでも私がどれだけ救われているのか、オッパに分かってほしかった。
オッパがいるから、わたしはまだ頑張れる。
そろそろ休まないと…と思いつつ、どうしても気になっていたオリンピックに潜む魔物の話をすると、オッパは「俺なら魔物も調理して食べるけど」なんて言う。
いかにもミノオッパらしい答えに、思わずふっと笑みがこぼれる。笑い声が聞こえたのか、「Aには笑顔が似合うよ」なんて言われて、身体中に熱が回っていくのを感じた。
特別、なんて求めないから。
どうかこのまま────。
幼馴染という言葉を免罪符に、オッパのそばにいたいと願ってしまう私を、どうか許してほしい。
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▼ My heart beat quickly when I saw you.→←▽
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作者名:こはる | 作成日時:2024年2月11日 22時