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────やってしまった。
フィニッシュポーズをとり、悔しさと情けなさで唇を噛む。下を向きそうになって慌てて観客に挨拶をした。
どんなにダメでも、最後は笑顔を見せなさいって言われたもんなぁ。
客席に向かって手を振ると、わぁっと歓声が上がる。
自分に向けられた期待を再認識してしまい、喉がぐっと詰まる感じがした。
コーチと合流して採点の発表を待つ待機場所──キスアンドクライでモニターに映る自分のジャンプを見つめる。
最初のトリプルアクセルでステップアウト。予定構成を変更して後半に難易度の高いコンビネーションジャンプを組み込んで立て直したものの、細かいステップでレベルを取りこぼしてしまった。
────プレッシャーに弱すぎるよ。
大舞台で失敗する自分に泣きたくなるけど、この瞬間もテレビで放送されていると考えると、一瞬も気を抜くことができない。
緊張がピークに達して、心臓がバクバクと音を立てる。膝の上でぎゅっと手を握ると、隣にいるコーチがそっと手を重ねてくれた。
自分の名前が呼ばれ、順位が発表される。
────6位。
今シーズンの最低順位、最低点数を叩き出し、目の前が真っ暗になった。
リンクを出ると、沢山のメディアが私を囲む。
-「失敗の原因は何だったのでしょうか?」
-「ロシアの選手がトップに立ちましたが、」
-「明後日のフリーに向けて一言お願いします」
自分に向けられたカメラとマイクが銃口のように見えて、心がズキズキと痛む。
ああ、どこか遠くへ逃げてしまいたい────。
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作者名:こはる | 作成日時:2024年2月11日 22時