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「Aの前ではただのイ・ミンホだよ。Aは気にしいだから、色々考えて遠慮してるんだろうけど」
ポン、とまるで子どもをあやすかのように頭を撫でられて、胸の奥がぎゅっとなる。頭の上を往復する手の温かさに、意地を張っていた心が溶けていくみたい。
「っ本当は、おめでとうって言いたかったの。でも、ミノオッパがどんどん遠くに行っちゃう気がして、、」
「さみしかった」と口に出した途端、視界が滲む。ああ、ずっと寂しかったんだ。自覚した途端に鼻の奥がツンとするけど、ここで泣いちゃだめだ、と涙が溢れそうになるのを必死に我慢する。息を堪えながら話す私の言葉に、頷きながら耳を傾けてくれるオッパ。そんな彼を見て、我慢していた本音が溢れ出した。
「オッパはアイドルだし、私だってそれなりに注目を集めやすい立場だし…変な誤解をされてオッパのことを困らせたくなくて」
息の整わない私を見てふっ、と笑いながら「Aは馬鹿だなぁ」と言われた。子供扱いされている気がして「だって」と言えば、「思慮深いところはAの良いところだけどね」と返される。
ほら、やっぱりオッパには勝てっこない。ちょっとした強がりも、痩せ我慢も結局全部見透かされてしまうんだ。
「あー、距離置かれたから嫌われたかと思った」
「そんなことないもん」
わしゃわしゃと髪に触れられることだって、他の人にされたら嫌なのにオッパだったらまあいいやって思えるくらい心を許してしまっている。
心の奥底にある気づいてはいけない感情に触れそうになって、思考をシャットダウンした。オッパを見ると安心するのも、胸が高鳴るのも、全て兄のような存在だからなのだと自分に言い聞かせる。
不思議そうな顔でこちらを見つめるオッパに「なんでもない」と言ってリビングに案内した。さっきから感情が忙しく変化して、まるでジェットコースターみたい。
オーディションのこと、メンバーさんのこと、スケートのこと。お互いの近況の話は尽きない。楽しそうに話すオッパを見て、大切な仲間たちに出会えたんだろうなと思わず表情が綻ぶ。
オリンピック前、見えないプレッシャーに押し潰されて気持ち悪くなるくらい調子が悪かった。そんなささくれていた心がまるで嘘みたいにぽかぽかとあたたかい。
憂鬱な毎日も、オッパと話すだけでこんなに幸せな1日になるんだ。
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作者名：こはる | 作成日時：2024年2月11日 22時
