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「知ってたんだ」
「え？」
「アイドルになったこと」
「まあ、」と言って俯いていた顔を上げると、オッパはちょっと寂しそうな顔をしていた。あまり見たことのない表情にびっくりして二の句を継げないでいると、「もしかして番組も見た？」と恐る恐る聞いてくる。
「まだ見てないよ？」
「そのまま見ないでよ」
「なんで？」
「情けないところたくさん映ってるし」
「…そんなことないと思うけど」
オーディションの中で、オッパは一度脱落している。理由は実力不足。
情けないところとは、この時のことを言っているのだろう。
最終的にはチーム全員でのデビューとなったと聞いて、正直演出だったのでは？と思ってしまった。順風満帆に事が進んでは番組的にもつまらない。波瀾万丈な物語が大衆の心を掴み、感動を誘うのだから。
「あ、でも曲は聴いたよ。Hellevator」
「おー、どうだった？」
「…厳しい世界で戦ってきたんだろうなって思った」
「芸能界のことはよく分からないけど」と付け足す。私たちの世界となんとなく似ている気がした。努力が必ず報われるとも限らない世界。それでも、夢を叶えるためには努力をするしかない。この曲には、先の見えない暗いトンネルをひたすら歩くしかないといった孤独感が漂っている気がしたから。
「なるほどねぇ。それで、Aは俺を避けると？」
「……え、」
「さっきから全然視線が合わないのはなんでだろうね？」
痛いところをつかれて、「別に避けてるわけじゃなくて、」としどろもどろになる。
Hellevatorを聴いた時に思ったのだ。この曲を歌っている人たちは、アイドルになるために血の滲むような努力をしてきたのだと。曲を作ったのがメンバーの3人だと知ってからは尚更。
──どうしよう、何か言わないと。
射抜くほどの視線を感じているけど、返す言葉に困って顔を上げられない。焦れば焦るほど言葉が見つからなくて、ズボンをぎゅっと握る。怒らせたかも、と萎縮する私に触れたのは、オッパの優しい手だった。
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作者名：こはる | 作成日時：2024年2月11日 22時
