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「──オッパ…?」
「久しぶり」
そこには、数年ぶりに会う人の姿があった。
え、嘘。夢でも見ているのだろうか。それとも、遂に私は幻覚でも見るようになってしまったのか。
びっくりして咄嗟に玄関を閉める。外から「なんで閉めるんだよー」というオッパの声が聞こえたが無視した。試しに抓った頬はすごく痛くて、鏡に映る私の顔は赤い。
夢じゃないんだ、と胸が高鳴る一方で、冷静に考えるとこの状況があまりよろしくないことに気づいた。
自分で言うのも変な話だが、私はアスリートとしてそれなりに知名度がある。記者の人から、取材と称したストーカー紛いの行為をされたことがあるくらいには。
そしてミノオッパはプレデビューを果たしたアイドル。スキャンダルを虎視眈々と狙う記者や、私生活を暴こうとするファン紛いがいたっておかしくない。
私とミノオッパはただの幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない。でも、万が一写真を撮られるようなことがあれば、週刊誌は私たちが恋愛関係にあると面白可笑しく書くのだろう。
そして世間は、私たちの言葉よりも誰が書いたのかも分からない週刊誌や関係者を名乗る人の言葉を信じる。
バレたら非常に面倒なことになると思い、ドアを開けてオッパを中に招いた。
「オッパって馬鹿なの?」
「やー、久しぶりに会えたのにそんなことを言うなんて」
「だって、オッパはアイドルでしょ…こんなところにいたらだめだよ」
「こんなところって…ここ地元なんだけど?」
「それはそうなんだけど、そうじゃなくて」
久しぶりに会ったオッパは髪の毛の色が明るくなっていて、あぁ、本当にアイドルになったんだと思わされる。高校生の頃と比較して大分痩せた気がして、ご飯をちゃんと食べているのか心配になった。
「オッパは久しぶりに会えて嬉しかったのに、Aは違うの?」
「別にそういうわけじゃないけど」
「ん?」と言いながらずいっと顔を近づけてくるオッパから顔を逸らす。
────すごく嬉しいって素直に言えたらいいのに。
オッパにくっついて離れなかった小さい頃の私だったら言えただろうな、ともやもやする。アイドルになったオッパとの距離感が分からなくてうまく話せない。
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作者名:こはる | 作成日時:2024年2月11日 22時