１０６音 ページ10
.
家に着く。靴を脱いでいると
後からお兄ちゃんが入ってきた。
出来れば一緒に食べたくないのにお腹が鳴る。
なんてタイミングの悪い私のお腹。
「ご飯…用意するから」
『うん…』
「さっきの事も詳しく話すから
手、洗ってきて」
何かを決意したようなそんな目をして
真っ直ぐ私を逃がさない。
手を洗ってリビングに入ると
凄く良い匂いがした。
静かに席に座ると目の前にお兄ちゃんが座る。
「……今から話す事
Aを傷付ける事になるかもしれない」
『もう傷付いたよ』
「…それよりもっと
今までみんなで隠してたんだ」
『え……？』
「Aの記憶のこと、昔のこと」
そう言ってまた真っ直ぐ私を見るお兄ちゃん。
変な胸騒ぎがする。
知らない方が良いようなそんな…ざわめき。
「…もし今日が嫌ならいつでもいい
明日でもいい、もっと先でもいい」
そう言うお兄ちゃんだけど
きっと今言いたいんだと思った。
気になる。
どうして私の幼い時の記憶はないのか。
どうして拓弥先輩と２人になったらダメなのか。
どうして拓弥先輩は私を恨んでいるのか。
『…知りたい、私の昔のこと』
「だけど約束してほしい」
そう言うお兄ちゃんの顔は真剣で
少しどきっとする。
「お兄ちゃんはいつでもお前の味方
もしお前がこの話を聞いて辛くなっても
死のうとはするな、それだけは約束」
そんなに…そこまでになる重要な話なの？
死にたくなるような…そんな……。
『…少し待って』
「…うん」
深く深呼吸をする。
さっきから胸がざわざわする。
私の体も何か思い出そうとそうしているのか。
深く何回も深呼吸をして
やっとお兄ちゃんの目を見れた。
『いいよ…話して』
「絶対最後まで聞いて」
『うん……わかってる』
「もし分からなくなったら言って。
辛くなったら言って。その時はやめる」
『うんっ…』
そう言ってお兄ちゃんは目をつぶって
深く、大きな深呼吸をする。
そして話し始めた。
「……お前にはお姉ちゃんがいたんだ」
『え……？』
「……事故で亡くなってしまったんだけど」
衝撃だった。
頭を殴られたようなそんな感覚になる。
その一言で今まで忘れていたことを
思い出そうとしているような頭痛。
『……事故』
「…お前を…Aを守って…死んだんだ」
お兄ちゃんから言われる言葉は残酷で
嘘だと思いたかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 234人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：凛桜 | 作成日時：2019年1月31日 17時
