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春の暖かい風が髪を靡かせる
「帰ろう」
みんな心配している
と付け足した
「僕なんかを、心配してくれている人なんていませんよ」
「いるよ」
「いませ」
「いるんだよ!!」
ビクッと肩が揺れる
「…なんで、ですか」
「少なくとも、俺は心配する」
…そんなの、ただの偽善じゃん
「そうですか」
手を差し伸べられる
僕はその手を取れなかった
「…どうして」
「僕には、資格がないんです
手を取る資格も、みんなの所にいる資格も、心配される資格も
ないんですよ」
「そんなの、初めはみんなそうだったんじゃないの?」
「っ…初めって、生まれた時からってことですか?
それだったら、あるじゃないですか…みんな
親から愛されて、大切にされて、楽しく笑いあって、怒られて…
僕にはなかった」
愛されることも
大切にされることも
笑い合うことも
心配して怒られることも
僕には、なかった_______
.
.
.
.
.
疲れた
柵があるところまで行き
手をかける
「…その向こうに行こうとしたら
全力で止めるから」
「ふっ…そんな勇気、無いくせに…?」
柵を跨ぐ
「っ!!まっ、」
ほら、自分が死ぬのが怖いからって
止めることすら、できないじゃん
偽善者
「僕は
好きな人がいます
けど、どこに行るのか
何をしているのか
わかりません
けど、あの人は僕のことを好きじゃなかったっと言うことだけは言えます」
「最後に…それ…?」
「この世に、言い残すことなんて…一つもないから」
…お母さん、僕は
産んでくれてありがとう
なんて、言葉は一生掛けても言わない
そんな言葉、お母さんには贅沢すぎるよ
お父さんにも
育ててくれてありがとう
なんて、似合わない
人一倍、僕に暴力振るってたのに…そんな言葉言えるはずがない
お兄ちゃんも
優しく、してくれた
けど…裏切ったことは今でも恨んでる
ありがとう…って言いたいけど
会ったら絶対に、恨みが勝って…言えないのかな
.
あの家のみんなには、言える
「ありがとう」
「っ…!
死なせない」
柵を挟んで、後ろから抱きつかれる
その人の匂いに包まれる
「っ、う」
「泣いてるじゃん…
本当は、死ぬのが…怖いんだよね?
だから、無理矢理そんな事しなくてもいい」
「うぅ…っ、グス」
「帰ろう?」
.
.
.
「うん…みんなに会いたい」
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作者名:羚於 | 作成日時:2017年3月23日 10時