HOME兄妹 (ページ3)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:265 hit

君の横顔ページ3

寒い寒い、北海道の冬。
冷える指先に掠める風や水が私の体温をゆっくり、ジワジワと冷やしていく。

『わっ、ひゃっこいぃ…』

手の先まで響くその感覚に、何度もスポドリを作る手が止まり、動かしては止まるの繰り返し。
できれば、もう一人くらいマネージャーが欲しいものだ。
まぁ、キヨ目当ての女子は、お断りなのだけど。

『でもまぁ、惚れないわけないか』

わかっていた。
キヨが皆の中心であり、皆の人気者であることくらいは、わかりきっていた。
手を伸ばしたくらいで、届くような、そんなどこぞの雑草なんかと訳が違う。
彼の優しさや無邪気さのある笑顔に、誰も逆らえなかった。

『キヨ…』

キヨの横顔が太陽に照らされる。
どんなに名前を呼んだところで、何も変わらないし、変わってほしくない。
私は、確かにキヨの事が好きだ。
それは自覚している。
ただ、キヨと付き合いたいとは思わないのだ。
キヨを、見つめて、話して、ふざけあっていられれば、それだけで。
この距離を、永遠に保っていたいのだ。

「あ、れ…A先輩？」

『嘘、美香ちゃん！』

濡れた手を拭きながら、小さな女の子に近寄っていく。
中学の吹奏楽部の後輩だった美香ちゃん。
まさか、この学校に来てたなんて。

『どうしたの？こんなとこで』

「先輩を探してまして…吹奏楽部にはいなかったので、全部の部活を回って、今ようやくってところです」

『あぁ、まぁ高校からはマネージャーやってるからさ、サッカー部の』

「そうなんですか、お一人でですか？」

『うん、まぁね』

「私じゃ、駄目ですかね」

『何が？』

「サッカー部のマネージャーです！確かに、サッカー経験はこれっぽっちもないですけど、なんか先輩に会えたらなんでも出来る気がしてきちゃって！」

『何それ、変なの』

昔からそうだ。
この子は、いつもいつも、なぜか私を元気づかせてくれる。
逆に、私がいつまでも元気をもらってばっかりだった気がするくらいだ。

『私は大歓迎だけど、美香ちゃんは？本当にいいの？』

「はい！」

敬礼なんかして、ふざけて見せる美香ちゃんは少しだけ、あの時から大人びていて。
なんだか、時が立ってしまったのだと、思い知らされる。
時は経つのに、足の鎖はどうやっても取れないまま。
私は、あの時から取り残されている。
これは、私の責任で。
私が、彼に、彼を殺してしまったから。
彼のすべてを動かすものを、壊してしまったから。
だから、いつまでも、このままで。