9 彩side ページ10
柊クンが野球部に行った後、私は翼に
「会議って…何か事件？」
と聞いた。だって気になったんだもん！
すると翼は癖の無い髪をサラッと乱して首を横に振った。
「いや、この文面だとそういう雰囲気じゃ無いよ。近況を報告し合おうって感じだろ。」
そっか…。やっぱり事件ってやたらには起こらないものね。
「でも近況って俺、ナンもないよ。最近、部活とハイスペックの往復、HSの練習や試合、毎日それで終わりだもん。気が抜けんのはAと話してる時とかいる時だけ。」
忙しそう…
「気になってるニュースも無いしさ。」
私は以前のkz会議を思い出しながら言った。
「確かそういう時には、自分の得意分野について話しても良かったんじゃない？それが皆の知識になって、kz全体の知的レベルが上がるから。親睦にもなってチームがまとまるし。」
翼はふっと溜め息をついた。
「アーヤは良いよね。国語が得意だから、驚きの四字熟語とか誰も知らないような漢字とか、皆が興味を持つような知識を提供できるでしょ。でも俺の得意分野って」
そう言いながら片手の親指で鼻の頭をつつく。
「これだもん。俺だけの感覚だから共感してもらえないし、誰の知識にもならない。」
翼が悲観的になってるのは珍しいことだった。
「なんか憂鬱そうだね。」
そう言うとあっさり頷いた
「最近毎日が漫然と過ぎてく感じなんだ。ハイスペックも、期待してた程刺激的じゃないし」
翼は以前、私達と同じ進学塾、秀明ゼミナールにいた。
でも自分の可能性を広げたくて、最近この街に進出してきた大手の塾、ハイスペック精鋭ゼミナールに移ったんだ。
学校の実力テストではいつも学年ベスト5には入っているし
体育大会の時にはどんな競技を任されても活躍して皆の注目を集める
女子は勿論男子にとっても憧れの存在なのに本人はちっとも満足していないんだ。
翼がこう言ったのを私は覚えている
__「俺の成績って特出したものが無いんだ。
数学でも国語でも理社でも英語でも
いつでも誰かに負けている。
総合ならそこそこ取れるけど
そういう取り方ってもう古いよ。
これからは総合力の時代じゃ無いと思う。
自分の未来の為に
自分らしい特出したものを構築しておきたい
自分を開発してそれを身に付けておきたい。
でも、それが具体的に何なのか全然掴めないんだ。」____
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作者名：驪乃 | 作成日時：2021年6月3日 21時
