造花は無垢に嗤う (ページ16)

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｢何｣
｢ふふ、やっぱり可愛い｣

｢、ハア？｣

不覚にも掴まれてしまった腕を引かれ、
目の前まで接近してきたその顔が愉しそうに歪む。
形のいい薄い唇が弧を描くのに対して
細められた瞳に映る自分は情けなく狼狽えている。

｢同じくらいの高さだったけど、でもダメ｣

｢Aしかすきになれない｣

少し不恰好な形をしたネクタイの結び目
強引に引き寄せられたと思えば、両肩に回ってきた彼の長い腕
こつんと頭に乗ったのは内村の丸い顎先だろう。

｢ねえ、どきどきする｣
｢は、？｣
｢おれの音聞こえる？
めちゃくちゃ心臓ばくばくしちゃってるの｣

｢Aがすきだからだよ｣

突き飛ばすように両手で胸元を押し返そうとしても、ただ手のひらが彼の温度に触れるだけでびくともしない。
昔だったらいとも簡単に引きはがせたその身体はいつの間にか私の手では負えないものになっていた。

私と背丈が変わらない平塚でさえふざけて私に絡んでくるのを振り払えないのだから、いくら華奢だとはいえ私よりもずっと高さのある内村を退けることなんて不可能なのだ。

｢…でもAは気持ち悪って思ってるんでしょ、おれ分かるよ｣

くく、と喉の奥から絞り出したような声音で笑う彼はゆっくりと私から腕を離して目線を合わせるように首を傾けた。

じっと舐めるように私を見つめて、冷えた手のひらで髪を撫でてくる。

｢もしさあ｣

びくびくと小さく震える私を見下ろしながら
そう言葉を続ける彼は、面白いものを見ているかのように穏やかな笑みを零す。

｢湧だったらどんな顔してたの？｣

ぺたりと、頬を覆うように触れてきたてのひらに
ぞわりと背筋を走った悪寒。

｢いいなあ、おれ湧の目になりたい｣

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