Je t'aime〜愛しの彼との短編集 (ページ1)

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幼馴染と言っても #1〈hkt〉ページ1

12月24日金曜日

時刻は夜の8時

叔父がシンガポールに引っ越すなんて去年の暮れに唐突に言い出して、管理も兼ねて住むことになった一人暮らしには広すぎるマンション。

私は今年も、世間一般的にいうクリぼっちを謳歌していた。
厳密に言えばまだイブだからちょっと違うのだが。

『彼氏ねぇ、』

28歳、会社員、独身。
交際相手なんて勿論いない。

過去に付き合ったこともあるよ。そりゃね？
でもここ数年そういった影はパタリと姿を消した。

三十路手前でコレは流石にやばい。
やばいことは分かっているんだけども、どうにもならないってのが現実である。

今日は金曜日のクリスマスイブで、帰りの電車の混み具合がマジあたおかだった。

それでもいつもなら死んだ顔をしながら満員電車に揺られているサラリーマンが、きっとこれから帰る家庭を思って心なしか頬が緩んでいるのを見れただけでクリスマスも悪くないなぁなんて思ってしまった。

残念、もう老化が大分進んでしまったみたい。

最寄り駅で降りて、帰りしなに寄ったコンビニでビールを数本と、珍しくシャンパンなんて買った。

足取り軽く帰って、電気をつけて手を洗って。

エアコンは1時間前から入るようにしていたから室内もあったかくてなんだか気分が良くなって、ささやかなクリスマスメニューまで作ってしまった。

それらをテーブルに運んで今、コルクを抜いたところである。

なんだか充実しているなぁなんて思いながら、
久しぶりに引っ張り出したお高めのグラス片手に
おもむろにテレビをつけた。

そこには全力で歌って踊っている女性の姿が。
あぁそっか。クリスマスイブだから音楽番組ね、と納得する。

カラフルなステージにの後ろにはこれまた大きいスクリーン

キラキラと光る笑顔で、綺麗な衣装を身に纏った美人な女性が自信に満ち溢れて映っていた。

素敵だなぁと思いながらも、じゃあそうか、と思い出す。

「きっと彼もでるなぁ」

俗にいう幼馴染で、きっと、いや確実に私のことなんて忘れてしまったであろう彼も、きっと出るだろう。

それで良いし、それが良い。

私は画面越しに見れるだけで充分。

またおばさんくさいこと言ってるかも、と自分に苦笑しながらも、視線はテレビに向け続ける。

幼馴染といってもね、そんなドキドキ！秘密の恋！
みたいなこと、現実はないのである。