【49】可哀想 ページ6
「助けて…」
思わず力無くつぶやく…恐怖で開けてられず、目をぎゅっと固く瞑っていた。
すると、男の暴言と暴力は急に止まり、逆に男が倒れ込む音が聞こえる。俺を包み込むようにふわりと抱きしめられる感覚があった。
一瞬の出来事で、何があったのか理解が追いつかなかった。
「もう大丈夫だよ…目を開けてごらん。」
少し低めの暖かい声、震えていた体とバクバクとうるさかった心臓が何事もなかったかのように静まり、全身があったかく感じる。
ゆっくりと目を開けると、目の前には優しく笑う大学生くらいの女の人がいた。
すると、尻餅をついていた男が立ち上がって彼女の背後から拳を振りかぶって近づいてくる。俺は咄嗟に男の前に彼女を守るように立ち、目を瞑る。
だが、その拳は一向に降ってくる様子はない。目を開けると、彼女が男の拳を軽々と掴んで受け止めていた。
「てめぇ、一体…!」
男は驚いて目を見開いている。少しだけ後退りして身体を震わせている。先程散々俺に暴力をしてきた人物だとは思えなかった。
彼女はゆっくりと瞬きをすると、目を光らせた。その表情や纏う空気に圧倒され、周りの人間も驚いている。
『…この少年が貴方に迷惑をかけたのは事実。それに対して否定をするわけでもなんでもありませんが…』
『この子はまだ幼い子供。間違えることだって沢山ある。それに対してこちら側は相応の態度を取るべきです。この程度の出来事で怒りを抑えられないとは…貴方の方がよっぽど幼稚だと思います。』
「なんだと…!」
彼女が言っていることはごもっとも、男は何か言いたい様子だが、言い返す言葉が見つからないのだろう。
『貴方だけではありませんよ…離れた場所に突っ立っている傍観者。警察すら呼べないような…あなた方の方がよっぽど"可哀想"だ。』
冷酷に淡々と話す彼女からは、怒りより呆れの感情が見えた。彼女の言葉に周りの人間は黙りこけて、周りは静まり返った。
『そういえば…弁償は私が代わりに。なにがよろしいですか?』
彼女は男の目の前に屈んで笑った。だが、男は怯えてその場から走って逃げてしまった。
『…更年期かよ、あの親父』
しばらく立ち竦んでいた周りの人間も動き出し、その場から去っていった。
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あいりす(プロフ) - えっ!!凄い!オリジナル…(感激)語彙力からまとめる力から全てが神がかってる!!!めっちゃ応援します!更新待ってまーす♪ (8月18日 21時) (レス) id: ef45f85bc9 (このIDを非表示/違反報告)
紅 - とっても面白いです。オリジナルが多くて驚きました。 (8月17日 16時) (レス) @page20 id: 2876b83137 (このIDを非表示/違反報告)
流百(プロフ) - 単純に嬉しいです。軽く泣きそうです。頑張ります!!!! (2023年3月6日 17時) (レス) id: d8225e9a51 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 絵もお上手ですし文も読みやすい…!これは伸びるやつだ!更新頑張って下さい〜! (2023年3月6日 0時) (レス) @page2 id: 925a09eca2 (このIDを非表示/違反報告)
流百(プロフ) - まみこさん» ありがとうございます!コメント本当に励みになってます! (2023年3月5日 22時) (レス) id: d8225e9a51 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流百 | 作成日時:2023年3月5日 21時