ケージ:98 ページ1
ぼろぼろと溢れていた涙が、不自然に止まる。
大きな瞳が更に大きく見開かれ、言葉にならないならない音が半開きの唇から零れた。
「お前は。」
「ひ、」
黒革の手袋に包まれた大きな手のひらが、固まる少女の顎を捉える。これだけみれば、ロマンチックな光景だろうが。
__もう片方の手は、拳銃を握りあろうことかその銃口を少女のこめかみに当てている。
静かな声に、怒気は感じられない。だからこそ、行動とその表情のアンバランスさが際立つ。
「お前は何も悪くない、と。そう俺から言われれば、満足か？」
行動とは裏腹に、言葉の刺とは裏腹に、男の声はあまりにも柔らかく、優しい。
耳朶を舐ぶるようなその声音は、まるで睦言のようですらあった。
「仮に、お前のせいだとしたら？お前に、何かできることがあるのか？」
何かに気がついたかのように、少女の表情が抜け落ちる。瞳に映る色が絶望か、恐怖か、それとも他の何かかは、わからない。
こつ、こつ、と銃口が少女のこめかみをいたずらに小突く。
慈愛さえ感じさせる笑みを浮かべ、優しく、それは優しくグルッペンは囁いた。
「ほら、何も、なーんにも、できないな。」
至近距離で、直接言葉を口移しするように。
そのまま幼い子供をあやすように、少女の頭を撫でる。か細く震える体をその胸に抱き、いとおしげに目を細めた。
「そんな馬鹿で愚図で無力なお前が、嫌いじゃない。
お前が気に病むことはないんだ。気に病んでも仕方ないのだから。大丈夫だ。お前がどんなに悪人でも、役立たずでも、俺たちはお前の事を捨てない。これまで通りにしよう。お前は、ただここにいればいい。悪いようにはしないさ。」
何処か聞き覚えのある言葉。
大きな手のひらが少女の目を覆う。
日向から覆い隠すように、暗闇に閉じ込めるように。
少女の体を自身の黒い外套で包み込む。
「お前に、これをやろう。」
固く、冷たい凶器。つい先ほどまで、少女に牙を向いていた小銃だ。
小さく華奢な手には似つかわしくない、重さも責任も有り余るそれを、グルッペンは握らせた。
「どう使うかは、お前次第だ。勿論使わなくてもいい。捨ててもいい。全て自由にすればいい。」
「……。」
「行ってくる。」
靴音が遠ざかる。
少女の表情は浮かない。
何か考えているようにも、何も考えていないようにも捉えられる。
部屋に取り残された少女は、小銃を握ったままぼんやりと、グルッペンの消えた扉を眺め続けた。
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かぼちゃ(プロフ) - この作品大好きです。最高です。何度も読み返しています。主人公が可哀想で可愛い。仄暗さが最高です。更新いつまでも待ってます。 (9月29日 0時) (
レス) id: af8b6c02d3 (このIDを非表示/違反報告)
さく - 続きは何処…！ (2022年11月18日 7時) (レス) @page32 id: 77c841469d (このIDを非表示/違反報告)
バカふわ - 続きと結末が気になります！ (2022年9月27日 21時) (レス) @page32 id: 95afcd7436 (このIDを非表示/違反報告)
りこち(プロフ) - すきです！！とくにz脅威さんの台詞の吃り方が天才です！！！！すき！！！！ (2021年2月21日 15時) (レス) id: 7094782543 (このIDを非表示/違反報告)
あか - とっても好きです！？！？！？！描写がとっても素敵で....更新ゆっくり待ってますね！！ (2020年5月23日 16時) (レス) id: 2c4cbba459 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちくわ | 作成日時：2020年2月26日 20時
