ケージ:54 ページ6
ほどなくしてエーミール先生が戻ってきた。
二人分のティーセットを机の上に置いて、向かいの椅子に座る。
「さ、どうぞ。」
上品な香りが、湯気と一緒に立ち上る。
お礼と一緒に頭を下げて、私はそっと口をつけた。
「……それで、本当にしたいことは、何でしょう？」
「！」
顔の前で手を組んで悪戯っぽく微笑んだエーミール先生に、心臓が止まるかと思った。
こちらの考えを全て見透かすような、オパールの瞳。
目に見えて動揺した私に、エーミール先生は困ったように眉を下げた。筋張った白い手が、そっと私の前の絵本を手に取る。
「本……が目的じゃないんですよね？だって、読んでいない。」
「あ……。」
自分の馬鹿さ加減にいっそ泣きたくなる。
気づかれて当たり前だ。あまりの情けなさと罪悪感に、私はふるふると背を丸めた。
「す、……すみません……。」
「ふふ。いいんです。」
気にしていない、とエーミール先生は紅茶を一口。落ち着いた彼とみっともないほど動揺する自分が酷く対照的で、ますます泣きたくなった。恥ずかしくてたまらない。
出鼻をくじかれてすっかりしょげた私に、しかしエーミール先生は優しかった。
「私はね。貴女がここに来てくれる事が、嬉しいんですよ。だから目的なんて何だっていいんです。」
「で、でも」
「でも、じゃないです。私がいいと言っているんだから、いいんです。……Aさんは、私の言葉を疑いますか？」
「！」
寂しそうな声色に、下げていた顔をパッとあげる。かた、と小さく机が揺れた。
「そ、そんなことない……！です……。え、エーミール先生は、いつだって……。」
「ふふ。」
「いつだって……、ほ、ほんとのことしか……。」
慈しむように見つめられて、言葉がだんだん尻すぼみになっていく。いたたまれなくなって再びうつ向いてしまう私に、エーミール先生が絵本を差し出した。
「せっかくですし、これはお貸しします。
さ、まずはお茶をいただきましょうか。」
冷めてしまいますから、とエーミール先生が私を促す。
「飲みながらでいいですよ。ゆっくり話しましょう。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2274人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えある。 - zmさんかわです。天才がここにいるっ!主さん神ですね！応援してます〜 (2023年4月6日 10時) (
レス) @page16 id: 9c1c96d73e (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - ゾムさんが可愛すぎるっぴ…キャラ崩壊してるっぴ。いつものかっけえゾムさんどこ言ったんだ……最高 (2020年4月13日 15時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - (´ω`)ｳﾄﾞﾝﾀﾍﾞﾀｲさん» コメントありがとうございます。お褒めの言葉、もったいないくらいです。とっても嬉しいです。自己満で書き始めたものですが、少しでも多くの人に楽しんでもらえれば幸いです。 (2020年2月26日 20時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - neccoさん» コメントありがとうございます。アワ……めちゃめちゃ恐縮ですが嬉しいです。応援もありがとうございます、こつこつがんばっていきます。 (2020年2月26日 20時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
(´ω`)ｳﾄﾞﾝﾀﾍﾞﾀｲ - ちくわさんの書く小説ほんと好きです！語彙力があるところ、表現の仕方がとても素敵です。リピーター続出ですね(*´-`) (2020年2月25日 22時) (レス) id: 43fae56533 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちくわ | 作成日時：2019年9月29日 11時
