ケージ:83 ページ36
何が愛だ、とロボロは内心で毒づいた。本気でそんなことを言っているのだろうか。もし仮にそうなら自分は誰かに愛されるなんて生涯ごめんだ。なぜなら、彼は確信していた。
__あれは、そんな綺麗事で片付けられるようなモンやない。
彼女の髪を、しんぺい神の指がすく。骨張った白いそれに、濡れ羽色の髪がするすると絡んではほどけた。
甘やかすようなその仕草。なんとなく、含みを感じて不快になった。神経質になりすぎだとは分かっている。目の前の男が、戯れこそすれどそんな人間でないことは知っている。
けれど、今のロボロの目にはそれすら毒だった。
「もう、終いや。俺が部屋まで連れてく。」
彼女に触れるその手が我慢ならない。
俺が、俺だけは守ってやらな、あかんのや。
奪い取るようにしてしんぺい神の腕から少女の体を抱え上げる。
ゾムあたりならここで渋って一悶着あってもよさそうなものだが、随分あっさりとしんぺい神は少女を解放した。視線を名残惜しげに送るでもない。雑面の下の凪いだ瞳は、ただ静かにロボロに向けられていた。
「王子サマにでもなったつもりかね。」
「……はあ？なんやの、喧嘩売っとるん。」
「カッカしなさんな。起きるで。その子。」
普段は何とも思わないような軽口。しかし、それに妙な棘を感じて知らず知らずの内に眉がつり上がる。舌を打ちそうになって堪えた。
___そんな大層なモンになるつもりも、なれることもないわ。
もう行く、と背を向ける。これ以上ここにいたら余計な事まで口にしそうだ。
軍医として基地内で優秀な彼は、時にある人間にとっては毒だった。職業柄、人の機微には敏感な男である。要するに勘が非常に鋭い。
気付かれたくないことまで、気付かれてしまうかもしれない。あるいは、気付かれているかもしれない。
防衛本能が、はやくこの場を離れろとロボロを急かしていた。
しかし同時に、恐らく彼は自覚していた。自覚しているからこその、防衛本能だった。さらに言えば自覚していて、していない振りをしている。
自分は、きっと本当は
ほんとうは
「ミイラ取りがミイラになるなよ。」
「……阿呆。誰がなるか。」
ほら。聞かない方がよかった。やっぱりだ。
吐き捨てるように言って部屋を出る。
呪縛のようにのし掛かった言葉が、いやに鼓動を乱した。
「……やって、おれは、ミイラ取りですら、ない。」
誰に言うでもない。ぽつりと落ちた言葉は、随分と冷めている。
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えある。 - zmさんかわです。天才がここにいるっ!主さん神ですね！応援してます〜 (2023年4月6日 10時) (
レス) @page16 id: 9c1c96d73e (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - ゾムさんが可愛すぎるっぴ…キャラ崩壊してるっぴ。いつものかっけえゾムさんどこ言ったんだ……最高 (2020年4月13日 15時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - (´ω`)ｳﾄﾞﾝﾀﾍﾞﾀｲさん» コメントありがとうございます。お褒めの言葉、もったいないくらいです。とっても嬉しいです。自己満で書き始めたものですが、少しでも多くの人に楽しんでもらえれば幸いです。 (2020年2月26日 20時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
ちくわ(プロフ) - neccoさん» コメントありがとうございます。アワ……めちゃめちゃ恐縮ですが嬉しいです。応援もありがとうございます、こつこつがんばっていきます。 (2020年2月26日 20時) (レス) id: bceee2f54e (このIDを非表示/違反報告)
(´ω`)ｳﾄﾞﾝﾀﾍﾞﾀｲ - ちくわさんの書く小説ほんと好きです！語彙力があるところ、表現の仕方がとても素敵です。リピーター続出ですね(*´-`) (2020年2月25日 22時) (レス) id: 43fae56533 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちくわ | 作成日時：2019年9月29日 11時
