__ ページ35
『ごめん。私たち別れよ』
家に帰ると神妙な面持ちのAが。話がある、とリビングに座らされ、まさかなと思っていたらそのまさかだった。本人は例年より演技に力を入れているようだが、嘘をつく時の癖__髪を触ったあと指を膝の上で組む__が出ていた。
マジか、という驚きと伊吹への謎の苛立ちで数秒固まってしまった。
そっちがその気なら。
「……理由だけ、聞いてもいいか」
『普通に、好きじゃなくなった』
嘘つけ、昨日も酔って好き好き言ってたじゃねぇか。
「そうか。無理、させてたんだな。ごめん」
Aの顔を見ると、いつネタばらししてやろうかというワクワク感が滲み出ていた。大方成功とでも思っているのだろう。
ツーと頬を流れる感覚。Aには言ったことがないが、実はいつでも泣けるのだ、演技で。花粉症も相まってボロボロと涙が零れてくる。
鼻を啜ると、ハッと顔をあげるA。
「悪い、かっこ悪いよな」
『えっ…』
「行く宛ては、あるのか?」
『えっと…』
「なら俺が出ていくよ。あれだったら家具とかも捨てても良いし、なんなら家を売ってくれても『かずくん!』
「なに?」
『あの、今日、エイプリルフール…』
凄く申し訳なさそうな顔で告げるA。
知ってるよ、とはまだ言わない。
「は…」
『別れるの、嘘…』
「……楽しかったか?」
『えっ?』
「俺が、まんまと騙されてるのを見て、楽しかっ
た?」
『あのっ…』
「Aがそんな奴だと思わなかった」
『かず、くん…』
「…ふはっ笑」
限界だ、色々と。突然笑いだした俺を今にも泣きそうな目でみつめるA。
「エイプリルフール、なんだろ?」
そう告げると、何故かまたみるみるうちにAの目に涙が溜まっていく。抱き締めると子供のように腕を背中に回し、泣き出した。
「悪い、やりすぎたか」
『だってかずくん怖いんだもん''ん''ん''ん''』
頭を撫でると少しずつ静かになっていく。
抱きついた体制のまま、蚊の鳴くような声で''本当に嫌われたと思った"と。
「どんな夏帆も大好きだから安心しろ」
266人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「志摩一未」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みみっく(プロフ) - nartosasuke1010さん» 了解しました! (2021年4月15日 12時) (レス) id: d5fadfa717 (このIDを非表示/違反報告)
nartosasuke1010(プロフ) - ありがとうございます!伊吹と仲が良い主人公。それが気に入らない志摩。嫉妬する感じを書いて欲しいです! (2021年4月13日 19時) (レス) id: d944f1cd48 (このIDを非表示/違反報告)
みみっく(プロフ) - nartosasuke1010さん» ぜんっぜん大丈夫です!!嬉しいです! (2021年4月13日 18時) (レス) id: d5fadfa717 (このIDを非表示/違反報告)
nartosasuke1010(プロフ) - リクエストしたいです!いいんですか? (2021年4月8日 17時) (レス) id: d944f1cd48 (このIDを非表示/違反報告)
みみっく(プロフ) - 宮本麻衣さん» 拙い文章でご満足して頂けたなら光栄です…!! (2021年4月8日 17時) (レス) id: d5fadfa717 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:みみっく | 作成日時:2021年2月11日 20時