【刀剣乱舞】帝國ノ遣イ【男主】〜参〜

第壱百捌戦　圧政 ページ14

しかし上層部は何も理解していない。この青年が何を見て、何を胸に抱えているか、彼の背負う重りすら他人事だと思っている。
彼が自分の感情を表面に出さないのを美徳としているから気付けないのは当然だが、彼は軍人だ。同じ人間だ。使い捨ての道具でも、消耗品でもない。
また陸海軍部の理不尽さをよく知っている。刀剣男士の在り方についても、常に疑念と矛盾を抱いている。そんな思慮深く、経験豊富な彼が大人しく従僕する訳がない。

「権力が行き届く範囲が肥大化すれば、圧政化する。仮に師団を率いる私が、政府に不満を抱き、クーデターを起こせば、審神者政府は簡単に崩れる」

「どうやって……崩すんですか……？」

余裕染みた薄ら笑いの軍人に、恐る恐る東が問う。長門は立ち上がって刀掛けに置いていた愛刀を手に取ると、白刃を鞘奔らせた。直後、東が身を固くする。

「武力ですよ。権力に逆らえぬなら腕力で打って出るんです。時期を見計らいつつ着々と準備をしておくんです。大勢の戦力の育成には時間が掛かる。掛かり過ぎる。だから餞別するんです。そしてそうなった時、師団の独裁的な軍国体勢の始まりです」

「……！」

ヒュッと喉笛が息を呑む音がした。スーツのズボンを握り締める東の手が、僅かに震えているのを神成は横目で捉えていた。
彼はきっと軍国化した国の情勢や、その時代の一般市民の感情や事情背景を全て把握している。

奔らせた白刃を鞘に戻す無骨な音が、深夜の審神者部屋に響き、宵に溶けて行く。長門に畏れを抱きながら決して目を離さない後輩の背を、神成は軽く叩く。

「……何て、今のは例えですから、全部冗談ですよ」

「(一体どこが……)」

刀掛けに黒鞘の愛刀を置くと、長門は再び役人二人の前に腰を下ろす。いけしゃあしゃあと冗談と言ってのける軍人を前に、神成は内心本気だったろうに、とひとりごちた。

「良いですか？戦争とは正義で起こるものではない。メディアの誘導と、金と、人間の権利が抑圧された時に起こるものです。戦争は儲かる。金になる。戦争教育を１０年するだけで十分です」

これだけは心しておくが良い。長門は淡々と言い切った。この青年の目は本気だったのを東と神成は見逃さなかった。二人は顔を見合わせ、頷いて見せた。

「先程も言いましたが、戦力の増大や育成には時間が掛かる。それは刀剣男士も同じ事です」

「というと……？」

「私はこの本丸の審神者です。彼らの……この本丸の刀剣男士の意志を尊重したい」

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