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第伍拾参戦 神秘 ページ6

折れる寸前の重傷だった筈が、完治した太刀相手への抵抗は大したもの。流石は魔王の刀だと、表情は一切変わらないが、長門は感嘆を溢す。付喪神の頑丈さと図太さは、帝国陸海軍に欲しい素質である。
前任との契約切と手入れも無事に終わり、長谷部は完治したのにも関わらず肩で呼吸をしている。暴れすぎて疲労がピークに達したらしい。

「その図太さは称賛に値しますが、逃げないで頂きたい。打刀最強の機動を誇る貴方を捕まえるのは、骨が折れます」

「長谷部が怪我をしていたとはいえ、よく捕まえられたな」

「山姥切さんが頑張ってくれました」

感心する鶴丸の言葉に頷くと、隣に佇む初期刀に微笑みかける。山姥切は照れているのか、いつもより布を目深に被った。
山姥切は、錬度こそまだまだ低いが長谷部の次に高い機動力を持つ。疲労も相成り、無意識に傷を庇って気が散っていた長谷部を捕えるなど、造作も無かったろう。

「(山姥切さんの機動力なら、陸軍の歩兵科で重宝されそうですね)」

内心ひとりごちる長門は、少し昔の事を思い出して瞳を閉ざした。感傷に浸るにはまだ早い。

「長谷部君、どこ行くの?」

手入れが終わるや否や、燭台切と鶴丸を振り払い、何処かへ行こうとする長谷部を光忠が呼び止めた。

「……お前には関係ない」

振り返ることも無く、淡白に言い切ると、長谷部は姿を消す。光忠は何か言いたそうにしていたが、言葉を呑み込んだ。
長谷部が何故、長門と距離を置こうとするのか、光忠はその理由をよく解っている。だから止められない。

「随分、あの男はやってくれたようですね」

僅かに長門の目付きが変わったのを山姥切は見逃さなかった。

◆◇◆

どうしてあの男は、自分を気に掛けるのだろうか。長谷部は離れへと続く廊下を歩きながら、新たな審神者を思い浮かべた。
ただ折れるのを待つだけで良かった。あの魔王よりも聡明で、ずっと優しい主の許へ逝ける。それで良かった。良かったはずだった。
彼は自分がいつ刃を向けるか解らないのに、折れる事を許さず、手入れをした。

新たな審神者は、余裕なのだろう。自分が襲い掛かっても返り討ちに出来る自信があるのだろう。事実、皆が怖れて逆らえなかった前任をたった一人で締め上げた。
彼の見せた一太刀は、真っ直ぐな瞳と何ら変わらない、強い意志と覚悟、そして強い信念が篭っていた。

彼の内に秘められた武士道とは、何か神秘の様なものだった。きっと燭台切、鶴丸、加州が感じたのは、それだろう。

第伍拾肆戦 私怨→←第伍拾弐戦 手入れ



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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

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