第玖拾戦 業 ページ43
まだ二日目、本丸は瘴気で汚染され、庭の木々は元気がないままである。だが長門は再び必ず桜を咲かせると契約し、自分は此処に在る。
「……三日月さん、夢を見たんです」
「ふむ、夢、か……？どのような夢だ？」
ぼんやりと庭を眺める主のあどけない横顔を、穏かな打ちのけが顧みた。
「皆さんと、貴方を具現した審神者殿の夢です……。あの夢の貴方は、心底から楽しそうだった」
木々を眺めたまま、否、三日月から目を逸らしたまま、淡々と長門は続ける。これだけはどうしても言わなければならない気がしてならないと思った。
「後釜の私には、到底埋まらない物が……っ」
「何故そう思う」
長門の言葉を穏かながらも有無を言わさぬ声音で遮ると、三日月は主と正面から向き合う。目を逸らそうとする長門が逃げられぬよう、頬を両手で挟んだ。
三日月模様の浮かぶ打ちのけに見下ろされ、長門の射干玉のような黒い双眸は、戸惑いを隠せず右往左往と泳いだ。
「長門、目を逸らすでない。俺を見ろ。……俺はお前を一度も後釜なぞと思った事は無い。お前は己の身を軽んじ過ぎだ。本来なら、付喪神との“約束”は自 殺行為、政府でもそう教わったろう？
だがな、実際はそこまで大した力は無いのだ。しかし付喪神という不確かな俺たちが存在できる神域は、不可能を可能にする。だからこそ、山姥切はお前を按じたが故に怒ったのだ」
政府でもこんのすけから重々、付喪神に本名を教えない、安易な約束は交わさないように言い付けられていた。だが長門にとって、神隠しだのどうでも良い。どのみち死が終着点なら、それで良いと思っていた。
「……どう足掻いても、私の望みは変わらないんです」
「なら、俺たちが変えてやろうか……？」
穏かな打ちのけが一瞬、猟奇的な光を帯びる。付喪神の本質であり、刀剣の本分でもあるのを長門は理解している。
神隠しをしたいなら好きにすれば良い。変えられる物なら変えて欲しいと無意識に願っていた。同時に、自分よりも先に死なないで欲しいと───。
「俺たちが変えてやろう、お前の望みとやらは、どちらに転ぼうと盛者必衰、色即是空。違うか？」
「よくおわかりで……」
何の感慨も映さない黒い瞳が僅かに伏せられる。どうせ自分には、もう残された道など無い。ならばここで、この本丸で、審神者として軍人時代の業を背負いながら最期を迎えても良い。そう思っている。
「長門、お前は俺に生きろと言ったから俺は今ここに居る。俺だけではない」
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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか！私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (
レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね？現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます！(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料？とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて･･･ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません；； (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ！退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：大日戦 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時：2016年12月18日 22時
